射撃の挙動 |
日本軍の小銃射撃
旧軍の小銃射撃はいわゆる部隊射撃と呼ばれるもので、歩兵操典(1940)中では分隊の射撃に関して以下のように記述されている。
第百二十五 分隊長は予め目標、射距離(照尺)、要すれば射向修正量、照準点を示し発射を号令す散兵を増加するときは先ず其の位置を示す
射撃開始後は分隊長は通常目標、射距離の要するときの外号令を下すことなく散兵は停止せば自ら射撃を行ふ
更に詳細で平易な説明としては、以下のような説明がある。
「分隊長は、小隊長より小隊の攻撃目標を示されるから、直ちに之を兵に示し、分隊の攻撃(射撃)目標と照尺、必要あれば照準点射向修正量を示した後、発射を号令する。
其の後は、分隊長の号令を待たずに、直ちに射撃をする。照準点は各人が選定するのである。
併し敵の位置が、眼鏡で視れば判るが、肉眼では判らぬ場合がある。此の際は、敵の前又は後方近くにある森の下際とか、堤防の上端とかを照準する方が、却って射撃し易いから『照準点は森の下際』というように示すことがある。之を補助照準点と謂う。
分隊は射撃する目標に向かって前進するのであるが、時には斜め方向の機関銃を射ちつつ、前方へ前進する場合、即ち射撃目標と前進目標が違う場合がある。」
帝国軍事教育社(1941)『最新図解陸軍模範兵教典』p.548
※上記説明では、小隊長から示されるのは小隊の攻撃目標だけのような記述となっているが、歩兵操典の第百十五と第百四十八によれば、小隊長は「小隊の攻撃目標及び分隊の攻撃(射撃)目標」を示すということになっているので注意。
日本以外の列強国では、分隊長は軽機関銃の射撃を指揮し、各小銃兵が有効射程内の敵に対して、独断で射撃を行う各個射撃を基本とし、例外的に部隊での射撃(集合射撃)を行う方式《フランス》や、各個射撃と併せて、状況によって部隊射撃も行う方式《ドイツ》など、各兵が随意に射撃する方式が主流であった。
参考:陸軍歩兵学校将校集会所(1923)『改正歩兵操典草案ニ関スル研究』pp.42,65
1923年以後に変化している可能性もあるが、列強では分隊の小銃手はなかなか自由に射撃が行えるらしい。
一方、日本軍では前述の通り分隊長が目標を示して、その示された目標を各小銃手が射撃するという部隊射撃であり、他国のように兵個人が独断で射撃目標を選ぶという形式は採用されていない。
ただし、分隊長が示す目標は、機関銃や火点なら問題ないが、敵の部隊や敵陣地といったような幅を持った目標が示される場合がある。
この場合、示された目標が例えば敵の分隊であった場合、少なくとも敵分隊の兵員数だけ射撃対象が存在する事になる。各兵は敵兵のどれを撃つかということを個人で判断・射撃することになっているので、その範囲においては各兵の独断での行動が可能となっている。
小銃と軽機関銃
軽機関銃が出現して戦闘群編成が一般的になって以降、分隊の中心火力は軽機関銃となる。
単純な話、軽機関銃は一丁で小銃10丁分以上の発射数を持つので、軽機関銃だけで小銃分隊一個分の射撃能力があると言える。そして、これは逆に言えば、小銃手10人前後が同一目標を射撃すれば、軽機関銃と(実際の所、少々劣るものの)同等の効果を得られるということでもある。
旧軍の疎開戦闘方式は軽機関銃分隊と小銃分隊に分けられていた。
小銃分隊は軽機関銃分隊と比べると火力不足かというと必ずしもそういうわけではなく、小銃分隊は分隊の兵員数が軽機関銃分隊よりも多く、基本的に軽機関銃のみが射撃を行う軽機関銃分隊とは違い、小銃分隊では分隊の全兵員による射撃も可能である。(軽機関銃分隊の軽機関銃手以外の兵は小銃を所持しているが、特に火力を必要とする場合や軽機が故障した場合等を除き、基本的に小銃の射撃は行わない)これに加え、分隊長の統轄による部隊射撃を行うことで、小銃分隊も軽機関銃分隊と比べて(実際の所、少々劣るものの)遜色ない火力を持たせている。
疎開戦闘方式は、小銃を軽機関銃と併せて主要火力として扱う戦闘方式である。
「小銃のみの戦闘」と「軽機関銃中心の戦闘」の間、過渡期の戦闘方式であり、これらをおおまかに区分すれば下記のようになる。
WW1以前~WW1初期 WW1中期~戦間期 WW1後期~WW2~
散兵線戦闘(小銃のみ)→疎開戦闘(小銃と軽機関銃)→戦闘群戦闘(軽機関銃中心)
これらの戦闘方式は、装備火器によって分類したり、説明を行うのは適当でないのだが、概ねこのような変遷を経ている。
日本軍も、1937年の歩兵操典草案から戦闘群戦法を導入することになるが、この部隊射撃は一貫して採用されている。
他国が同じ戦闘方式を採用していても、細かく中身を見ていくと国によって違いがあるわけだが、日本軍の場合、良し悪しは別にして、この部隊射撃の採用は一つの特色といえるのではないか。
他国が同じ戦闘方式を採用していても、細かく中身を見ていくと国によって違いがあるわけだが、日本軍の場合、良し悪しは別にして、この部隊射撃の採用は一つの特色といえるのではないか。
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