2014年12月29日月曜日
対砲兵戦に関する戦史的講話(三)
一九一八年三月二十一日より七月十五日に到る、独軍第一次乃至第五次の攻勢となるや、独軍は弱点攻撃(滲入戦法)を採用し、夜間の展開、毒瓦斯及び無試射に依る準備砲撃の短縮、時刻及び第一線歩兵大隊長の要求に依る、火光信号に依る弾幕躍進距離の増大(二百米)、砲兵の躍進(歩兵一連隊に野砲一中隊を附す)、弾薬補充の重視、生々溌剌たる独断先制の推奨、砲弾の直接利用等に依り、大なる成功を収めたり。此の間、師団砲兵は全部直協砲兵群、軍団砲兵は対砲兵戦に任ぜしむ(仏軍亦同じ)。
而も、第五次攻勢は移動弾幕射撃と歩兵前進との分離、砲戦砲兵の過早なる射撃中止に依り失敗せり。之を以って、ルーデンドルフ将軍は一八年七月二十二日、 対砲兵戦の継続と移動弾幕射撃の増大に伴う砲兵陣地変換の必要とを訓令せり。
斯くて、対砲兵戦、歩兵の砲兵利用の問題は結局結論を与えずして大戦を終われり。
戦後一九二一年九月発布の「独国連合兵種ノ指揮及戦闘」第三六五には次の如く云えり
砲兵は情況及び我企画上、最早陣地秘匿の必要なく、而も有利なる目標を認知するや否や軍隊指揮官の命令に依り射撃を開始するものとす
就中、敵砲兵の展開に対しては、観測班及び空中観測を遺憾なく利用して、猛烈且つ周到なる射撃を指向すること必要なり。其の他砲兵の大部は敵歩兵が攻撃配備に就き、前進を開始するに至るまで敵の砲兵と対戦す
敵歩兵の諸運動を認むるや、砲兵の大部は敵歩兵に対して射撃を指向し、残余を以って依然敵砲兵を射撃す
一九二四年版独逸砲兵操典(一九六三)には砲兵の主要なる任務は敵歩砲兵の展開妨害とし、陣地戦に於いては敵砲兵の制圧なり(一九七六)と云う
一九二二年発布の仏国統帥綱領案第二百十には次の如く称す
「砲兵火は要点に対し歩兵火を増援す」
「攻撃切迫するや師団長は軍団長の命に依り、時宜に依り対砲兵射撃を命ず」
而して、軍団砲兵は抵抗陣地前の戦闘に参与するも、其の他対砲兵戦及び遠戦に任じ(同綱領一六二)、軍砲兵は敵が攻撃前進を開始するや対砲兵戦及び交通遮断に任ずるも、主要なる目標は敵歩兵とす
之を通覧するに、両国共状況之を許す場合に於いては対砲兵戦を推奨しあり。
本邦戦闘綱要は防御に於ける敵の攻撃準備に方りて、軍直轄砲兵は敵の準備未だ完からざるに乗じ、機先を制して先ず敵砲兵を射撃し、師団砲兵も亦為し得れば之に協力するものとす。然れども、敵砲兵著しく優勢なるときは砲兵、特に師団砲兵の主力をして初期に於ける対砲兵戦を避けしむることあり(戦綱一九〇)とせり
又、「敵歩兵攻撃前進を起こすや、砲兵は予め火力を準備せる地域に対し、適時射撃を行い、以って其の前進を阻止すべし。然れども、状況に依り予め準備せざる地域に対しても射撃するを要することあり。此の間所要の砲兵を以って敵砲兵を射撃し、且つ要すれば敵後方に対する射撃に任ずるものとす」(戦綱一九〇)と云えるに依り、我が国軍に於ける対砲兵戦の真諦を悟り得べし。
又、攻撃に於いても、攻撃準備射撃に於いて敵砲兵を制圧し、為し得れば破壊を実施することを唱導し、攻撃前進に方りては、主として敵砲兵及び遠距離より射撃する機関銃を射撃し、次いで突撃陣内戦闘に方りても、一部の火力を以って敵砲兵を制圧すべきを示せるは味わうべし。
要するに、攻防共歩兵戦闘の惹起せざる以前、戦闘初期に於いて、為し得る場合には敵砲兵を制圧、若しくは破壊せよ。但し、之が為、自己砲兵の生存を危うくせざる如く戒めよ。爾後、歩兵戦闘惹起するに到れば、之に砲兵火力の重点を置け。然れども、敵砲兵を無下に跳梁せしむるは、我歩兵を救うの道に非ざるを以って、一部の砲火を指向し、之を操縦せよとの結論に達するものとす。
従って、砲兵の対砲兵戦法には撲滅と擒縦自在の制圧との二種類あり。前者には集中を理想とし、後者には分散制圧と逐次制圧との二射撃法を生ずるを知るべし。(終)
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