2015年4月29日水曜日

(砲兵操典による)砲列における分隊長以下の定位一覧

野戦砲兵

野砲

三八式野砲(重砲)
改造三八式野砲
九五式野砲
機動九〇式野砲

騎砲

四一式騎砲

山砲

四一式山砲
九四式山砲

榴弾砲

九一式十糎榴弾砲

野戦重砲

三十八式十糎加農(1929年)
三十八式十糎加農(1940年)
三八式十二糎榴弾砲
三八式十五糎榴弾砲
四年式十五糎榴弾砲
十四年式十糎加農
九二式十糎加農
九六式十五糎榴弾砲

重砲兵・要塞重砲兵

二十八糎榴弾砲(1929)
二十八糎榴弾砲(1940)
四五式十五糎加農(1929)
四十五式十五加農(1940)
四五式二十四糎榴弾砲(1929)
四五式二十四糎榴弾砲(1940)
八九式十五糎加農
九六式十五糎加農
十一年式七糎加農
十二糎速射加農
二十四糎加農
十五糎臼砲

高射砲兵

十一年式七珊半高射砲
八八式七糎野戦高射砲

「ホ」式十三粍高射機関砲
高射機関銃(砲兵操典第一部)※2


三八式野砲は『砲兵操典 第二部 重砲兵及要塞重砲兵』に掲載されている図。
野戦砲兵が運用する場合としては、改造三八式野砲の配置図が適当。
※2
高射機関銃に関しては砲兵操典第一部に記述されている。第一部は野戦砲兵・重砲兵等に関わりなく、全砲兵に共通である。便宜上、高射砲兵の節に入れたが、高射砲兵のみが高射機関銃を運用するわけではないので注意。

出典書籍

・『砲兵操典』(成武堂,1929)
・『砲兵操典 第二部 高射砲兵』(一二三館, 1939)
・『砲兵操典 第二部 野戰砲兵(自動車)』(武揚堂, 1940)
・『砲兵操典 第二部 重砲兵及要塞重砲兵』(武揚堂, 1940)
・『砲兵操典 綱領、總則及第一部第二部野戦砲兵(輓、駄馬)第三部』(尚兵館, 1941)

2015年4月18日土曜日

旧軍の前哨・小哨・歩哨概説

前哨
第百七十八 駐軍間の警戒は主として前哨を以って之を行うものとす』(作戦要務令第1部)
前哨は、駐軍している軍隊の警戒に任ずるため、その前方に配置される部隊。
(軍隊が移動中の時は、前衛・側衛・後衛などを設けて警戒を行う)

前哨の規模と編成(作要第1部 第180、182、183)
前哨は通常、歩兵1個大隊以下。
駐軍するにあたり、必要に応じて警戒する地域をいくつかの前哨区に分け、各前哨区に前哨部隊を置く。
状況に応じて工兵や砲兵、通信部隊等を配属する。

前哨の任務(作要第1部 第189)
 ・敵の捜索の妨害
 ・奇襲を予知するために必要な範囲の捜索
 ・敵と近い場合、昼夜を問わず敵との接触を保持して敵情を明らかにする

前哨部隊の区分(作要第1部 第185)
前哨大隊は、若干の中隊を敵方に出して警戒に任ずる。この前哨大隊から出す中隊を前哨中隊と呼ぶ。
前哨中隊は、敵方に小哨、または歩哨を出す。
小哨は、敵方に歩哨を出す。歩哨は一地から動かずに監視を行うため、その監視が十分であるとは言えない。そのため、必要に応じて巡察を派遣し、監視警戒の密度を高める。
また、近距離の敵情・地形等を捜索する警戒斥候を派遣する。
前哨中隊から巡察斥候を出すこともある。


前哨大隊
任務(作要第1部 第200)
敵襲に際して前哨中隊及び直接前哨大隊から派遣した小哨を増援する。状況により小哨等を収容する。
位置(作要第1部 第200)
通常、交通に便利な要点に位置する。
兵力(作要第1部 第182、183)
通常、歩兵1個大隊程度。所要に応じて騎兵、砲兵、工兵、通信部隊等を配属する。
警戒
前哨中隊、銃前哨等を出し、前哨全部の責を負う。

銃前哨は、前哨中隊や小哨等の位置で直接警戒を行う。3人一組程度で一名の歩哨を交代で立てる。

前哨中隊
任務(作要第1部 第205)
通常、主要な抵抗線を成形するもので、別命が無ければ極力敵襲を拒止する。
位置(作要第1部 第205)
敵襲の拒止に適した要点に配置する。
兵力(作要第1部 第205)
通常は歩兵1個中隊。機関銃、歩兵砲、砲兵、工兵等を配属することがある。
警戒(作要第1部 第207、211)
小哨、時として歩哨を配置し、時々必要な方面に斥候・巡察を派遣して警戒に当たる。
前哨中隊の位置に直接警戒のため銃前哨を配置する。必要に応じて対空監視哨を設ける。

小哨
任務・位置(作要第1部 第213)
小哨は歩哨の支援を行い、後ろ盾となる。警戒上の要点に位置して捜索を行う。
敵襲に際しては、前哨中隊等が戦闘の準備を整える時間を稼ぐ。
兵力(作要第1部 第214)
重要度の度合いに応じて1個小隊以下の兵力をこれに充てる。状況により必要であれば機関銃、対戦車火砲、携帯地雷、犬等を配属することがある。
警戒(作要第1部 第215)
敵に関する顧慮が大きくないような状況では、主に敵方に通じる道路や重要地点に歩哨を配置する。警戒の間隙には必要に応じて斥候・巡察を派遣して警戒を密にする。
敵に関する顧慮が大きい場合は、その度合に従い歩哨を互いに近く、相接するように配置する。
夜間や濃霧の際はより一層歩哨を相接するように配置する。

歩哨
任務・位置(作要第1部 第224)
歩哨は通常、最前線の監視線を成形する。
区分(作要第1部 第225)
歩哨を分けて分哨複哨とする。
分哨
位置(作要第1部 第225)
重要な地点、あるいは交代する際に不便な地点等に配置する。
人員(作要第1部 第226)
分哨は通常、哨長たる下士官、または上等兵以下4~7名。
状況により更に人員を増加する。また、軽機関銃が配備されることがある。
警戒法(作要第1部 第226)
通常、分哨の一部で監視を行い、他の兵員はその近くで勉めて遮蔽した状態で待機する。
兵は叉銃せず、全員が常に銃を持つ。
交代(作要第1部 第226)
極寒時等では、分哨であっても短時間内に交代を行う必要がある。

複哨
位置(作要第1部 第227)
分哨を置くまでもない地点、つまり、それほど重要ではない地点に配置する。
2人哨は小哨に近い位置か警戒が容易な地点に配置する。
小哨から複哨を出す距離は通常400m以内。
人員(作要第1部 第227)
所要の兵員を歩哨掛の下士官、または上等兵の指揮の下2~4名ずつを交代で服務させる。
警戒法
2人、3人、4人共立哨して警戒する
交代
歩哨掛の指揮によって交代服務する。

歩哨の番号(作要第1部 第225)
歩哨はこれを出した部隊毎に右翼から順に一連番号を附け、第1分哨、第2複哨のように呼ぶ。
歩哨の服装と携行品(作要第1部 第228)
歩哨は小哨長の命令により背嚢を小哨の位置に残置する。
歩哨には手榴弾、必要であれば眼鏡、擲弾筒、対戦車地雷等を携行させる。その使用に関しては所要に応じて小哨長が指示を行う。
歩哨の位置(作要第1部 第229)
・なるべく十分な展望を持ち、かつ敵から遮蔽できる位置を選ぶ。
・樹木、家屋、堆土等を利用し、必要に応じて眼鏡を使用する。また、所要の偽装を施して、かつ勉めて掩体、障害物等の工事を施す。
・高所の場合、音響を聴き、火煙を見るのに便利である。夜間は低地に位置していれば、空を背景に敵を見ることができる。昼夜で監視位置を変えることは往々にして必要なことであり、これは夜間の敵による奇襲の回避にも繋がる。
・ガスに対する顧慮が大きい場合は、特に風向き、地形等に応じてガス使用の兆候、ガスの流来等の発見に便利な位置を選ぶ。
分哨長、歩哨掛の歩哨設置(作要第1部 第230)
歩哨掛、または分哨長は、任務を受けたら部下を率いて所要の警戒を行いつつ、速やかにその哨所に就き遮蔽してとりあえず監視に任じて小哨長が来るのを待つ。この際、小哨長誘導のために案内者を出すのも可。
歩哨掛、または分哨長は、特別守則を受けたらこれを兵に十分徹底させ、歩哨のために所要の設備を施して地形を覚えさせ、爾後複哨にあっては歩哨掛が交代の兵を率いて小哨の位置に帰還する。

歩哨一般守則
作戦要務令第1部
第二百三十一 歩哨線に在る歩哨は左の一般守則に基き行動すべきものとす

一、絶えず敵方を監察し併せて四囲を警戒し総ての徴候に深く注意す
敵に関し発見せば良く之を確かめて其の一名は報告し若し猶予し難きときは急射撃又は信号を為し且つ一名は急報す
少数の敵兵近接せば殺すか又は捕獲すべし

二、歩哨線の出入りを許すは我が軍の部隊、将校、斥候、巡察、伝令とし爾余の者に関しては小哨長の指示を受く 夜間近づく者あらば銃を構えて良く確かめ彼我判明せざるときは機先を制して「誰か」と呼ぶ三回呼ぶも答えなければ殺すか又は捕獲すべし
自動車は停止せしめて取調ぶべし
歩哨の命に反する者は殺すか又は捕獲すべし

三、出発する斥候よりは任務、経路、帰来の地点、時刻等の概要を聴き自己見聞の状況を告げ帰来する斥候よりは其の見聞せし事項を聞くべし

四、白旗を掲げ遠方より軍使たるを表す者と降参人とに対しては敵として取り扱わず歩哨線外に之を止め敵の方向に面せしめ降参人には武器を棄てしめ乗馬(車)者は下馬(車)せしめ速やかに報告すべし此の際無用の談話を避け特に欺かれざる様注意すべし

五、歩哨は喫煙すべからず命令なければ坐臥するを得ず銃は手より放すべからず昼間は立銃、提銃又は腕に銃を、夜間は提銃又は腕に銃を為す

歩哨の特別守則
作戦要務令第1部
第二百三十二 小哨長は歩哨の特別守則を定め良く之を徹底せしむ其の内容は状況の推移に応じ適時補修すべきものとす
特別守則に於いて示すべき事項及び順序概ね左の如し

其の歩哨の番号
必要なる道路、村落、地物等の名称(要すれば写景図、要図等を利用す)
敵情
前方に在る我が部隊及び斥候の状況
特に監視すべき要地又は方向
敵の瓦斯使用及び之に対する警戒法等に関し注意すべき事項
隣歩哨の位置、番号及び之との連絡法
小哨、中隊等の位置及び之に通ずる経路
歩哨の監視法、姿勢、交代法要すれば瓦斯兵の行動、敵襲に際し取るべき処置
信号及び警報
其の他特に注意すべき事項

後退時の注意(作要第1部 第233)
歩哨は敵襲に際し、後退を命令されている場合でもすぐにその位置を放棄することなく、沈着して行動し、敵との接触を保ちつつ後退する。この際、自軍部隊の位置を敵に知られないこと、及び、自軍部隊の射撃の妨げとならないように注意する。
歩哨の交代(作要第1部 第234)
複哨の交代は歩哨掛立ち会いのもと行う。下番者は見聞した事件及び斥候として前方に出た者がいた場合は、その任務、経路、帰来の地点、時刻等を上番者に申し送りを行う。この際、監視は継続し中断しないようにすること。また、交代の往復時等、敵に暴露しないよう注意する。
分哨の監視兵の交代も概ね上に準じる。

参考文献

・『作戰要務令 第一、二、三部、附録其ノ一、二、三、四』(尚兵館,1942)
・軍事攻究會 編『實戰に基く歩哨、斥候、傳令、連絡兵勤務の研究』(一二三館, 1939)

2015年4月12日日曜日

中隊教練(分隊) 防御

中隊教練

第二款 防御

第百三十六 分隊長は状況の許す限り綿密に地形を偵察し射撃区域の地形及び隣接部隊との関係を考慮し火器特に軽機関銃又は擲弾筒の威力を最も有効に発揚し得る如く配置を定む

第百三十七  分隊の配置を定むるには射撃区域特に至近距離に最も有効に火力を発揚すると共に敵の攻撃を受くるの虞ある他の方向に対しても火力を指向し且つ損害を減少し得る如く地形に適合し疎開せしむ此の際通常分隊を数群に分かち之を梯次に配置し又屡々(しばしば)軽機関銃を分離して配置す
狙撃手、監視兵等は分隊の陣地と適宜離隔せしむるを利とすることあり
射撃区域に代え主なる射撃方向を示されたるときは分隊長は其の占領区域と射撃方向とを基礎とし自ら射撃区域を定む

第百三十八  軽機関銃、擲弾筒の為には各種の状況に応じ十分なる火力を発揚し且つ損害を避けんが為数箇の射撃位置を設け又之に近く弾薬集積等の為掩護の設備を設く

防御時の分隊配備
配備は状況等によって変化するが、一例として『歩兵教練ノ参考』に示された一般・擲弾分隊の配置の図を掲載する。

一般分隊               擲弾分隊

防御の配置は、『歩兵操典 第136』に示されているように、一般分隊は軽機関銃、擲弾分隊は擲弾筒の効力を最大限発揮できるように配置することとされている。
攻撃の時、一般分隊の軽機関銃は分隊の射撃開始から陣内戦に到るまで、終始射撃を行う分隊の主力火力である。それに対して小銃は必要に応じて火戦に参加するか、貯蔵されて白兵戦の際に使用されるという、言わば軽機関銃の補助及び白兵戦用といった扱いであったことはご承知のことと思うが、防御にあってもこの関係はさほど変化せず、軽機関銃を戦闘の中心に据えるという趣旨に一貫している。


第百三十九 分隊長は豫め友軍の状況、分隊の射撃区域、所命の火力急襲地点 中隊長以上の計画に依り火力を急襲的に集中すべき地点を謂う 前地の地形等を示して兵に了解せしめ射撃指揮を容易にし又状況の許す限り工事、偽装を十分ならしむ

火力急襲
火力急襲地点」なる単語が『昭和15年 歩兵操典』で登場し、註解も加えられている。
この「火力急襲地点」は、操典の記述の通り「火力を急襲的に集中すべき地点」であり、その計画も中隊長以上が行うこととされている。
また、偽装についても十分に行う旨の記述があるが、これは支那事変の際、偽装した中国軍の陣地への攻撃が非常に困難であったという教訓から、より一層重視するようになったようである。

第百四十 擲弾分隊長は射撃準備を命ぜられたる地点に対し各筒の射向、距離分画、射撃の要領等を示し豫め所要の準備を整えしむ

分隊の射撃区域その他
一般分隊射撃図             擲弾分隊射撃図
『歩兵教練ノ参考』に射撃図が掲載されている。(この射撃図は、事前に作成しておくと便利。といったもの。詳細は歩兵教練ノ参考 第二巻、p.127)
この図を見ると、火網の前端は陣地から概ね500~600mとなっている。
これは分隊の攻撃の時と同様、射撃は近距離(600m以内)から行うこととなっているためだろう。
また、擲弾筒は最大射程が火網の前端となるだろうと思われるが、現実的に考えると最大射程での射撃は、命中率や射撃修正の問題からするとあまり歓迎できることではないと思われる。
図中の火網の前端が600mではなく、約500m地点であるのは、おそらくそういった理由からではないかと思う。(あくまで出典等の無い個人的な考えではあるが)

第百四十一 射撃を開始せざる間分隊長は極力兵を掩蔽せしむ然れども敵の近接に伴い機を失せず射撃位置に就き得るの準備並びに所要の小銃手をして随時有利なる目標を狙撃せしむるの準備に遺憾なきを要す
分隊長は自ら敵情を監視すると共に所要の兵をして敵情監視に任ぜしむ

第百四十二 射撃は小隊長の命令に依り開始し射撃区域及び所命の地点に対して行う爾余の地域に在りても敵兵分隊に近迫するときは之を射撃す
分隊長は射撃に際し散兵をして巧みに隠顕し或いは射撃位置を変え或いは敵を欺騙せしむる等敵に目標を捕捉せしめざるの著意を必要とす
敵兵近迫し来るも分隊長以下我が白兵の威力を信じ自若として益々火力を発揚し要すれば手榴弾を投じ之を陣地前に破摧すべし敵兵遂に突入し来たれば敢然白兵を揮(ふる)いて撃滅すべし縦い我が陣地に侵入するも最後の一兵に至る迄奮闘し飽く迄其の地を固守すべし

射撃開始前後の動作
敵が火網に進入するまでは、兵を敵眼から隠すことが基本である。敵の砲爆撃等の被害を避けるためにも、陣地の掩体や掩蔽部に避難する等を行う。敵の近づくのに従って兵を射撃位置に就かせる準備を行う。敵の指揮官等を射撃できるのであればその狙撃を行う。

小隊長の命令によって射撃区域と所命の地点(一般分隊は所命の火力急襲地点、擲弾分隊は射撃準備を命ぜられたる地点)に対して射撃を開始し、 他の地域(隣接分隊との間に出来る射撃区域外の部分側背地域)も敵兵が近迫した場合はこれを射撃する。
この際、分隊長は兵が敵に捕捉されないように隠顕(射撃後すぐに隠れる等)したり、射撃位置を変換したり、欺騙的動作(遮障:右画像参照、偽銃、偽兵の設置など)を行うように兵に徹底させる等注意する。

敵が至近距離まで来た場合、戦闘において重要な精神的要素白兵信頼の精神(おそらく白兵(銃剣)だけでも俺は戦闘を戦い抜けるぞ。といった心持ちのこと)を持ち、かつ、近距離であればあるほど射撃効果は高いので持てる火力を発揚し、必要であれば手榴弾を投擲して敵を陣地前で破摧する。
健闘むなしく敵が陣地内に突入して来たときは、銃剣でもって白兵戦を行い敵を撃滅する。この際、最後の一兵となっても奮闘し自分の持ち場を死守する。

第百四十三 戦車を伴う敵の攻撃に対しては分隊長は通常戦車に跟随する歩兵を射撃せしむ然れども戦車至近距離に近迫し来たるときは兵を指命して覘望孔等を射撃せしむることあり

対戦車戦闘
日本軍の対戦車戦闘は、基本的に連隊の速射砲と中隊長(小隊長)が編成する肉薄攻撃班が担当する。そのため、肉薄攻撃班(組)用に兵が抽出されたり、特別な事情により分隊でも肉薄攻撃を行わなければならないような場合を除けば、分隊として行う対戦車行動は多くない。
操典に記述されている動作も、戦車と行動を共にしている歩兵を射撃することが基本となっている。
対戦車用の資材(爆薬、地雷等)は中隊等が所有している。これが分隊に配付されなければ対戦車戦闘を行うにしても、分隊としては小銃や軽機関銃で戦わざるをえない。このため、操典では分隊の至近距離に戦車が来た場合に行う動作としては、小銃や軽機関銃でほぼ唯一効果が期待できる「覘望孔等を射撃」となっている。



説明等は
『歩兵教練ノ参考(教練ノ計画実施上ノ注意 中隊教練 分隊) 第二巻』,1942
『歩兵操典詳説 第1巻』,1942
をもとに作成。

2015年4月4日土曜日

中隊教練 戦闘(分隊) 攻撃・突撃・陣内戦闘

中隊教練

第一節 分隊 第一款 攻撃

第百二十一 分隊は小隊長の命令に基づき適時射撃を開始す
射撃は近距離に於いて敵を確認し十分なる効果を予期し得る場合に於いて行う精錬なる軍隊は縦い敵火の下に在りても我が射撃効力を現し得ざるときは自若として前進を続行し妄(みだ)りに射撃せざるものなり

射撃開始
小隊長は分隊に対して射撃開始の時機や射撃開始の地点を示す。
分隊が小隊長の命令に基づいて前進し、射撃開始時機・地点に就いた際、分隊長が射撃開始の必要がないと判断した場合は、射撃を行わず、更に目標に向かって前進する。

射撃は近距離で敵を確認して十分な効果が期待できる場合に行う。
ここで言う「近距離」は、600m以内のことである。(諸兵射撃教範 第二部、第203)
600m以内といっても”敵を確認し十分なる効果を予期し得る場合に射撃を行う”ため、実際には500mであったり、100mであったり、場合によっては50m以下というごく至近距離で射撃を開始する場合もあるだろう。

第百二十二 射撃は先ず軽機関銃要すれば之に狙撃手を加え状況に依り先ず狙撃手のみを以って行い敵に近接し火力の増加を必要とすれに至れば更に所要の火器を増加す
火力を増加するに方り過度に小銃を排列するときは我が重火器等の射撃を妨げ且つ突入に先だち無益の損害を被ること多きに注意するを要す

軽機と狙撃手
射撃はまず軽機関銃で行う。必要であれば狙撃手を加える。射撃圏内にいる敵が少数で、軽機関銃が射撃するまでもない。というような場合など、状況によっては狙撃手のみで射撃を行う。
※“狙撃手”は、諸兵射撃教範では“特別射手”と呼んでいる。
これは、特別射手狙撃手という呼称になる前に「諸兵射撃教範」が配布されたため。
名前こそ狙撃手だが、分隊の中にあって分隊の一員として運用されるわけだから、現在の区分で言えば選抜射手(Designated Marksman)である。
旧軍には一般的にイメージされる(独立して行動するような)狙撃兵は基本的に存在しない。
当時は狙撃手選抜射手という区分は無いので、当然、両方区別せず狙撃手狙撃兵と呼んでいる。

敵に近づくに従い、火力の増加が必要となれば、必要に応じて射撃に参加する兵を増加する。
この際、小銃手を射撃に参加させるために並べ過ぎると重火器の射撃の邪魔となり、突撃の前に無駄な損害を受ける可能性が高いので注意する。


第百二十三 軽機関銃は通常分隊の攻撃(射撃)目標中有利なるものを、小銃手は己に対向せる部に於いて比較的明瞭なるものを選ぶ
狙撃手は通常分隊の攻撃(射撃)目標附近に現出する敵の指揮官、監視所、自動火器等特に有利なる目標を機を失せず狙撃す然れども分隊長は軽機関銃を使用せざるときは所要に応じ狙撃手をして攻撃(射撃)目標中有利なるものを射撃せしむ
分隊長攻撃目標以外の敵を射撃するときは我に特に危害を与うるもの若しくは速やかに殲滅を要するものを選ぶ

射撃目標
一例
軽機関銃は、分隊の攻撃目標(イ)の中の有利なる目標である敵の軽機関銃(他の例としては、敵が密集した部分など)を目標とし、小銃手は分隊の攻撃目標中で、自分が対向する部分で明瞭なものを目標とする。
狙撃手は、分隊の攻撃目標の近くに現れた機関銃(ロ)を目標とする。



第百二十四 分隊長は予め目標、射距離(照尺)、要すれば射向修正量、照準点を示し発射を号令す散兵を増加するときは先ず其の位置を示す
射撃開始後は分隊長は通常目標、射距離等の変換を要するときの外号令を下すことなく散兵は停止せば自ら射撃を行う

分隊長の射撃号令
例えば、
「堆土から右墓地までの散兵(目標) 500(射距離)」、「撃て」
基点を定めて、予め目標等を示す場合は、
「第1基点の左1分画の間にある◯◯ 射撃開始は◯◯ 400」
射向修正量は、九六式軽機で目標から射弾がずれたとき、これを修正するためのもの。
分隊長がその修正量を密位で示すので、横尺を利用して照準を修正する。
照準点は、普通は各兵で決めるが、横風がある場合や採用した照尺と目標の距離が一致しない場合などでは分隊長がこれを指示する。(射教第二部 第123)

散兵を増加する場合は例えば、
「軽機の右(左)へ散れ」といったように位置を示す。

射撃開始以降、分隊長は目標や射距離の変換を行う場合を除き、号令は行わない。
散兵は射撃開始以降、自分で判断して射撃を行う。

第百二十五 軽機関銃射撃の為停止せば二番は自ら射撃位置を選び三番は弾倉嚢を二番の左側に送り四番は三番に弾薬を逓送(ていそう)し得るを度とし二番を基準として逐次其の左後方に地形地物を利用して伏臥す
一番は敵情及び射撃目標特に弾著に注意し分隊長を輔佐し要すれば直ちに二番に代わりて射撃を行う

軽機関銃各兵の動作
一番」は敵情と射撃目標、特に弾着に注意し、分隊長の補佐をする。二番(射手)が負傷・戦死した場合等では、これに代わり射撃を行う。
二番」は自分で射撃位置を選ぶ
三番」は弾倉嚢を二番の左側に送る
四番」は三番に弾薬を送れる位を限度にして、二番を基準にその左後方に位置し、地形地物を利用して伏臥する。


第百二十六 擲弾分隊の射撃は通常小隊長の命令に依る分隊長は目標、距離分画、要すれば筒の位置、射向修正量、弾種を示し発射を号令す
分隊の射撃は目標の状態、目的、発射弾数等に依り異なるも先ず指名射に依り所要の修正を加え各個射を行うを通常とす然れども射撃諸元を得ある場合、状況急を要する場合等に於いては最初より各個射を行うこと多し
射撃位置に就きたる筒は右より順序に第一、第二等の番号を附す

第百二十七 擲弾筒射手射撃位置を占むるや第一弾薬手は射手の傍に到り射手に準ずる姿勢を取り射手の毎発唱うる「込メ」の合図にて装填し装填終われば直ちに次の弾薬を準備す
第二弾薬手は射手の右(左)後方適宜の所に位置し第一弾薬手の弾薬射耗するや之と交代す射手の携帯せる弾薬は最後に使用するものとす

擲弾分隊の分隊長と弾薬手の動作
擲弾分隊の射撃は小隊長の命令によって行われる。
小隊長の命令を受けた分隊長は目標・距離分画、必要であれば筒の位置・射向修正量・弾種を示して射撃の号令を行う。

例:指命射の場合
「堆土より右一分画に亙る敵の陣地 300」
「第一 撃て」
「第二 撃て」
   ・
   ・
   ・

擲弾筒はその威力と運用の簡便さから濫用傾向にあり、携行弾数の関係もあって小隊長の命令によって射撃を行うこととされ、且つその使用も、少なくとも操典上では主に小隊の突撃動機の作為と陣内戦闘に限定されている。(歩操 第152)
射撃はまず指命射を行い、各筒手は着弾結果を基に方向を修正する。(射教 第179)
分隊長は、指命射の弾着を観測し、各弾着の近い・遠いを判断する。
全弾の弾着が「遠い」か「近い」場合は 射距離を40m修正し、遠弾・近弾の数の比が3分の1以下の場合と、射距離修正を行った後の射弾が全て最初と反対の方向に落ちた場合、20mの修正を行う。(射教 第181)

3筒での射撃の場合の一例
分隊長「目標前方のボサの右の機関銃 300」
各擲弾筒手「第一準備終わり ……第三準備終わり ……第二準備終わり」
分隊長「第一撃て」
 第一筒発射
分隊長「第二撃て」
 第二筒発射
分隊長「第三撃て」
 第三筒発射
三発が次々弾着
分隊長「近し方向良し、近し右、遠し左」(遠近の比が1/2で1/3以上なので修正なし)
各擲弾筒手「第一準備終わり …第二準備終わり …第三準備終わり」
分隊長「各個に二発 撃て」
六発が次々弾着
分隊長「近し方向良し、近し方向良し、近し方向良し、近し方向良し、近し方向良し、遠し方向良し」
分隊長「320」(指命射と各個射を合わせて観察。遠近の比が2/7となり、1/3以下なので射距離を20m修正)
各擲弾筒手「第一準備終わり …第二準備終わり …第三準備終わり」
分隊長「各個に三発撃て」

と言った具合になる。
(これは訓練における例なので、実戦等ではこれと異なっている可能性がある)
この各個射の6発の中で、判別が難しい着弾やどこに落ちたか分からなかったものは、除外して残りの5発の結果で修正を行う。

また、あまりにも長くなるため取り扱えなかったが、実際には、各個射の時に方向がズレる場合は分隊長が修正を行い、風があればそれを考慮して修正を行い、移動目標なら目標の移動量と弾薬の飛行時間を考慮する。擲弾分隊の射撃指揮は行うことが非常に多い。
⇒「擲弾筒運用一考」で詳解

第百二十八 戦闘間分隊長は指揮に便なる所に位置し兵良く射撃の法則を守るや、良く地形地物を利用するや、良く指揮官に注意するや等を監視す又絶えず小隊長に注意し之との連絡手段を講ず
分隊長は敵情、地形を観察し弾著を観測して分隊の戦闘を有利に導くと共に所要の事項を適時小隊長に報告す
分隊長は敵火盛んなる場合に於いても自ら前方要すれば斜方向の敵を制圧し断乎前進するを要す
敵に近迫し戦闘激烈となるや分隊長は益々旺盛なる志気を以って分隊の儀表となり部下の掌握を確実にし鞏固なる意志を以って任務に邁進すべし

第百二十九 突撃の機近づくや分隊長は要すれば更に小銃手を火戦に増加し益々沈著して火力を発揚し敵陣地特に障碍物、側防機能の状態等を確かめて小隊長に報告し突撃を準備す此の際擲弾分隊長は特に小隊長の企図を承知し随時有効なる射撃を実施し得る如く準備す
敵に近迫せる後は敵の手榴弾投擲距離内に停止せざる如く留意す

突撃準備
突撃発起の前には突撃準備が行われる。「突撃発起の前」と言っても、具体的にこの地点、敵前何mから行うというものではなく、小隊の展開とともに開始され、突撃発起までに完了するものである。
突撃準備にあたっては、分隊長は必要に応じて小銃手を火戦に増加する。この際、増加する兵は必要最小限に抑え、白兵貯存の主義に徹する。

分隊長は、敵の障害物の種類・強度障害物と火点との距離既成の破壊口の場所と程度側防機能の位置突撃点付近の地形等友軍の重火器・砲兵の射弾・射撃の効果や状況などを偵察し小隊長に報告する。
また、突撃発起の予定位置や突入方向等の突撃を実施するにあたっての要領を部下に徹底する。

擲弾分隊は、突撃動作の作為を行う重要な部隊である。突撃準備では小隊長との連絡を密にし、小隊長から射撃準備を命ぜられた場合は、射撃目標と射撃位置を明示して各筒をその位置に就かせ、射距離・発射弾数・方向修正量・弾種などを示して、弾薬を準備し、全ての準備が完了すれば小隊長に報告する。

第百三十 分隊長は自ら好機を発見するか或いは突撃の命令あるときは直ちに突撃の号令を下し率先先頭に立ち全分隊を挙げて猛烈果敢に突入すべし時として軽機関銃をして一時我が突撃を妨害する敵を射撃せしむ此の場合に於いては軽機関銃は機を失せず追及すべし
擲弾筒の射撃集中の効果を利用し突撃する場合に於いては分隊は勉めて前方に位置を占め擲弾分隊と協調し其の射撃の最終弾と共に一挙に突入すべし

第百三十一 擲弾分隊は通常突撃すべき目標に対し急襲的に至短時間に射弾を集中し敵を圧倒震駭せしめ以って突撃発起の動機を作為す
分隊長は所命の弾数を発射し終わるか或いは突進せる分隊に危害を及ぼさんとするに至れば直ちに分隊を率いて突入するか又は所命の地点に進出す

突撃
分隊は突撃の際は、全分隊を挙げて突入する旨が記述されているが、場合によっては軽機関銃を一時的に残置して分隊の突撃の支援を行うという記述がある。

軽機関銃でもって敵正面から射撃し、分隊長が率いる分隊の主力(小銃)が側背から突入する。
突撃の途中で新たな敵が出現したときこれを軽機関銃で射撃する。等、用法は状況によって様々だが、いずれの場合でも敵の射撃後には分隊に追従する。

また、擲弾筒の射撃での突撃では、最終弾と共に一挙に突入すべし の文がある。
擲弾筒に限らず、砲兵の射撃でも最終弾の爆裂と同時に敵に突入することになっている。
最終弾と共に突入できれば、敵が砲撃の被害から避けようと塹壕内等に頭を下げている間に突っ込めるわけである。

歩兵教練ノ参考 第二巻』の例からいくつか掲載すると下のようになる。
好機を発見して行う突撃
命令ある突撃(擲弾分隊の支援)

命令ある突撃(砲兵の支援)

第百三十二 敵陣に突入せば分隊は不撓不屈突撃と射撃とを反復互用し陣内に突進すべし此の間小隊長の命令適時到達せざることあるも分隊長は断乎任務に邁進し良く部下を掌握し前進方向を誤ることなく敵の弱点に乗じ之が撃滅に勉む此の際に於ける分隊長以下の適切なる独断と勇敢なる動作とは既に戦勝の第一歩を占むるものなり
火点 通常自動火器を主体とする個々の敵陣地を謂う に突入せる分隊は蝟集せざること特に緊要なり
敵の逆襲に対しては機先を制して猛射し果敢に突撃し之を撃滅すべし

第百三十三 陣内の攻撃に方り擲弾分隊は損害を顧みず極力小隊の突撃に共同し且つ自ら突撃を実施すべし
敵の逆襲に対しては擲弾分隊は直ちに火力を集中し其の企図を挫折せしむ状況に依り逆襲を支援する自動火器を射撃することあり

陣内攻撃
「分隊は蝟集せざること」
分隊の前進(第百十九)のところでも出てきたが、支那事変の際に一箇所に集まって被害が大きくなった様な事例があったようだ。 『歩兵操典詳説 第1巻』p.109
また、同書籍同ページにこのような記述がある。
「日本軍は動もすると一時機の成功に歓喜して無意識に蝟集するの通弊がある」

陣内戦は、射撃と突撃をひたすら反復して敵陣の後端に出るまで行われる。陣内戦が最も熾烈で複雑な戦闘となるはずだが、操典も参考書も取り立てて記述が多いわけではない。塹壕を利用して戦闘するか、塹壕の外で戦闘をするか等の特殊な点は存在するものの、これまで行ってきたことを状況に応じて変化させつつも繰り返すだけである。そういったことから、操典等では詳細にあれこれ制式が定めていないのだろうか。


第百三十四 手榴弾は通常咫尺(しせき)に近迫せる後行う突撃、側防機能に対する肉薄攻撃、掃蕩等に方り之を使用す
手榴弾を使用して突撃するには通常若干の兵は潜進し不意に投擲せしめ分隊主力は爆裂の瞬時一挙に突入するを利とす

手榴弾の用法
手榴弾はごく至近距離からの突撃、側防機能に対する肉薄攻撃、塹壕内の敵の掃蕩などに使用する。
手榴弾投擲の突撃は若干の兵を潜進して不意に投擲させて、分隊主力で突入するのが有利である。と操典には記述されているが、当然これ以外の用法でも良い。



第百三十五 分隊長は弾薬の節用に留意し緊要の時機不足なからしむるを要す之が為携帯弾数及び其の補充を考慮し要すれば射撃すべき兵を指定し或いは射撃の時機及び弾数を示し或いは射撃速度を加減する等各種の手段を講ず
戦闘に堪えざる兵を生じたるときは其の弾薬を収集す
分隊長は時々弾薬の現数を小隊長に報告す

弾薬の節用・携行・補充
弾薬の節用
・射撃を行わず極力近接に努める
・射撃する兵を指定する
・射撃の時機と弾数を示す
・射撃速度を加減する
・戦死、負傷して戦闘に参加できない兵から弾薬を回収する

弾薬の携行・補充
・弾薬の補充は軽機関銃の射撃に支障がないようにすることを主眼とする。
・増加弾薬の携行は、分隊の各兵の体力を考慮してその負担を分担する

一般分隊の場合                擲弾分隊の場合


説明等は
『歩兵教練ノ参考(教練ノ計画実施上ノ注意 中隊教練 分隊) 第二巻』,1942
『歩兵操典詳説  第1巻』,1942
をもとに作成。