2015年2月27日金曜日

戦闘各個教練(二) 地物・胸墻・地形を利用した応用姿勢他

戦闘各個教練

小銃

第五十三 射撃に方りては地皺又は土塊と雖も巧みに利用して姿勢を堅確にし或は銃を地物に托し或は銃の脚を用い射撃効力を発揚す
銃を依托するときは銃口を少なくも約十糎地面より離す
胸墻(きょうしょう)に拠る射撃は身体の前部又は左側を内斜面に接し両肘又は左肘を臂座(ひざ)に置き銃を胸墻に托す
又樹木に拠る射撃は適宜左前臂を之に托す

第五十四 地形地物を利用する膝射の姿勢に在りては右足尖を立て臀を右踵の上に載せ或は臀を上げ或は両膝を立て両肘を其の上に置き或は左肘を膝より離して立射の如くする等適宜応用姿勢を取ることあり
傾斜せる土地に於ける伏射の姿勢に在りては体の角度を増減し又は片肘を開閉し或は脚を曲ぐる等の手段に依り体を安定にし据銃を確実にす

第五十五 対空射撃の為には通常逆射若しくは膝射の応用姿勢を用う
状況に依り伏射を用うることあり

2015年2月26日木曜日

戦闘各個教練(一) 要則・要旨

戦闘各個教練

戦闘各個教練は、分隊教練や小隊教練のような“部隊で行う戦闘教練”が行えるように、各個人に必要な基礎的動作を演練する教練。

第二章 戦闘 要則

第四十九 戦闘各個教練は兵をして散兵の動作に必要なる基礎を得しむるを目的とす之が為敵に対し地形地物を利用して前進し停止し射撃し突撃することに習熟せしむると共に特に攻撃精神を養成し以って自ら信じて戦闘し得るの能力を与うるを要す

⇒『歩兵教練ノ参考(各個教練) 第一巻』p.87
 戦闘各個教練の指導
分隊内の一員たる散兵の基礎の動作を教育するの趣旨に徹底すること
換言すれば分隊教練の準備の為に行うの趣旨に徹底するを要す


第五十 戦闘各個教練の教育に方りては最初は号令に依り動作せしめ要領を会得せば号令に依ることなく実施せしむ
戦闘各個教練は教育の各期を通じ絶えず之を行い又瓦斯内の戦闘に習熟せしむるを要す

号令に依り動作せしむる指導と号令に依ることなく実施せしむる指導とに就いて
2、戦闘各個教練に方りては最初は号令に依りて動作せしめ要領を会得せば号令に依ることなく実施せしむ
然れども課目に依り教育の初期に在りても号令に依ることなく実施せしむることあり
例えば地形地物を利用する射撃に於いて利用せしめんとする地形地物を指示して指導する際の如し
又反対に教育の末期に於いて号令に依ることなく実施せしむる際に於いても地形等に依りては途中より号令に依り動作せしむることあり
要は良く教育の目的と進度とに適応し教育の効果を最大ならしむること緊要なるを以って教官は変通自在其の適用を巧ならしむるを要す(歩教参考)pp.97-98

第一節 射撃 要旨

第五十一 射撃教育に方りては戦場に於ける諸般の状態に即し常に正確適切に射撃し得る如く訓練するを要す
之が為速やかに目標を発見し適当に之を選ぶこと、適切に照準点を定むること、視え難き目標を的確に射撃すること及び劇動後に於いても沈着して正確なる射撃を行うことに習熟せしめ
特に狙撃手及び軽機関銃射手に在りては此等に熟達せしめ且つ隠顕(いんけん)、移動目標をも機敏的確に狙撃し得しむ

⇒射撃教育に方りては戦場に於ける諸般の状態即ち射手、目標の状態、敵火、天候気象の状態に即し常に正確適切に射撃し得る如く訓練するを要す(歩教参考)p.98

速やかに目標を発見し適当に之を選ぶこと(歩教参考)p.100
偽装、遮蔽の発達せる今日目標を迅速に発見することは屡々(しばしば)訓練を実施するにあらざれば成果を収め難し
敵に先んじて之を発見し正確なる射撃を実施するは即ち機先を制する所以にして戦勝の第一歩なり

適切に照準点を定むること(歩教参考)pp.101-102
射撃に方りては其の平均弾道を目標の中央に導く如く照準点を定むること必要なり
之が為射手をして良く自己の銃の固癖を理解せしむると共に各種距離、天候気象の感
及び目標の状態に応ずる照準点修正の要領を綿密に教育し教練に於いて之を応用せしめ絶えず一発必中の信念を以って射撃せしむること緊要なり

視え難き目標を的確に射撃すること(歩教参考)p.103
戦場の目標は通常目視困難なること前述の如し故に常に目標を不明瞭に設置し之に対し正確なる射撃を実施する如く絶えず訓練すること緊要なり

劇動後に於いても沈着して正確なる射撃を行うこと(歩教参考)pp.104-105
劇動後不正確なる射撃を実施するは弾薬を浪費するのみならず却って敵に目標を呈し損害を招くに至る
故に劇動後に於いても常に正確なる射撃を実施し得る如く其の射撃の要領特に呼吸沈静法を綿密に教育し据銃、照準、撃発は常に射撃教範に示す如く実施し得るに至らしむるを要す

劇動「単に二、三十米の早駈を以って劇動とするが如きは操典の精神にあらず長距離の運動後真に呼吸の苦しくなるが如き状態に於いて訓練すべきものとす」p.105

隠顕、移動目標を機敏的確に狙撃すること(歩教参考)pp.105-106
狙撃手、軽機関銃手は前記諸項に熟達せしむるの外隠顕、移動目標を機敏的確に狙撃することに熟達せしむること必要なり
偽装、隠蔽を適切にせる目標は静止間に於いては発見困難なるも此等が隠見移動して目標を暴露する瞬間を捉えて狙撃するは射撃の効果を現す好機なり
戦場に於ける射撃は此の好機を機敏に捉えて的確なる射撃を実施し得るもの勝利を得べきことを考え狙撃手、軽機関銃手は勿論一般小銃手と雖も之が演練に力を用うること必要なり
而して此等の目標に対しては狙撃手、軽機関銃手は射距離七、八百米に於いても的確に射撃し得るを要す


第五十二 射撃の為地形地物を利用するの要は銃、筒の最大威力を発揚するを主とし併せて遮蔽の効果を収むるに在り
故に兵をして目標及び敵火の状態に応じ各種の地形地物に就いて価値を判別し
要すれば之を改修し適切に利用して射撃することに習熟せしむ

⇒…地形地物の利用に方りては常に遮蔽に注意すること緊要なり
而して地形地物の利用は状況に即すること緊要にして徒に遮蔽の効果を収めんとして却って姿勢の堅確を害し或は攻撃精神を消磨するが如きは厳に之を戒めざるべからず
平素の精神教育と相俟って主眼を失せざる如く指導すること緊要なり(歩教参考)p.106


2015年2月24日火曜日

旧式手榴弾の操法


大正14年(1925)の『教練指針 下巻』(学校教練用の冊子)に、十年式手榴弾の採用以前に使用されていた旧式(ここに掲載するのは大正期の手榴弾)のヒモを使って投擲するタイプの手榴弾の扱い方が記載されていたので、読みやすく調整してここにご紹介。

第十一編 手榴弾投擲法
 通 則

第一 手榴弾は、近接戦で、其の爆発に依って、敵を殺傷するため、使用するものであって、我小銃火の威力を、発揚すること不可能の場合に、用いるときは特に有利である。

第二 手榴弾の使用は、通常投擲に依るものである、然れども時としては、障碍に利用することがある。

2015年2月23日月曜日

基本各個教練(十) 手榴弾の投擲

基本各個教練


手榴弾ノ投擲

第四十七 投擲姿勢を取らしむるには目標を示し左の号令を下す
     立投(膝投)(伏投)
不動の姿勢に在るとき目標を示さるるや先ず之に正対す

立投(たちなげ)

立投の姿勢を取るには銃を右手に持ちたる儘(まま)
両踵(かかと)を目標と概ね一線上に在らしむる如く立射に準じ姿勢を取り
銃を左臂に托し手榴弾を取出し安全装置を解きて発火の準備を為し
左手にて銃を提(さ)

2015年2月21日土曜日

基本各個教練(九) 諸兵射撃教範 擲弾筒 筒の保持法・照準・撃発

諸兵射撃教範

重擲弾筒

第一款 筒ノ保持法

第百三十五 伏射及膝射に於ける筒保持の要領及び其の要点概ね第十九乃至第二十二図の如し
十年式擲弾筒を使用する場合に於ける筒の保持法も亦本要領に準ずるものとす
信号弾を発射する場合に於いては伏射を為し筒は略々垂直に保持するを要す

伏射状態での筒の保持
膝射状態での筒の保持


射角について

歩兵操典草案(1937)
第六十九 …筒を概ね四十五度の角度に保持し目標に注目す

陸軍歩兵学校編戦闘各個教練ノ参考{小銃 擲弾筒 軽機関銃}第壱巻』(1938)p.55
三、射角 
射角は概ね四十五度を基準とし一定なる如く筒を保持するを要す蓋し仮令(たとい)正確に四十五度ならざるも常に一定に保持せば射撃に何等支障なきも射角が発射毎に変らんが射撃修正混乱命中を期し得ざるに至るべし

歩兵操典(1940)
第四十二 …筒を水平面に対し四十五度に保ち…目標に注目す

陸軍歩兵学校編擲弾筒取扱上ノ参考』(1941)p.1
射 撃
四十五度の一定射角(信号弾に在りては略々垂直)を以って行い射距離の変換は薬室容積を変化せしむる方法に依る

陸軍歩兵学校編歩兵教練ノ参考(各個教練) 第一巻』(1942)p.68
2、射角は常に四十五度を正確に保たしむ
之が為左臂を十分伸ばし左手は筒の略々中央を左上方より握り且つ止板位置を規正し常に此等の関係を一定ならしむるを要す…(以下規正修正等に関する記述)

・執筆者記載なし 「擲弾筒射撃講話『兵学研究琢磨』に掲載された記事
一 筒の保持(典四二、範二ノ一三五)
筒を水平面に対して、確かに四十五度に保つと云うことは、擲弾筒射撃の基礎をなすものである。
そしてこの四十五度は厳格に四十五度であって、「約」や「概」や「通常」や「基準」ではないのである。筒を水平面に対して四十五度に保つには諸兵射撃教範(以下単に教範と称す)第二部第十九図乃至第二十二図に明示されて居る如く
  1、左手を以て筒の略々中央を左上方より握って、左臂を十分伸すこと
  2、伏射であるか、膝射であるかによって止板の位置を規正すること
の二つに依るものであって、言いかへれば、水平面に対し止板と左拳との関係位置を常に一定に保つことである。(範二ノ一三九)

山崎慶一郎著歩兵隊第一期 初年兵教育』(1943)pp.142-143
一、射角の保持は常に心手期せずして正確に行い得るに至らざるべからず
 之が為不断の演練を行い習性とならしむるを要す
二、右の目的上本課目には特に時間を配当すべきも一通要領を会得せば
 爾後間稽古にて演練するを可とす
三、射角は正しきに越したることなきも器械を用いざる以上若干の誤差は免れ難し
 然れども僅少の誤差は射程上大なる影響を与えざる所に本兵器の特徴あり其の関係左の如し
(1) 射程の増減
 薬室容積変化に伴う瓦斯圧力の作用・・・・・・大
 射角の増減・・・・・・・・・・・・・・・・・小
 (註) 小銃は射角の増減が射程増減作用の総てなり
   故に其の頭を以って擲弾筒を律するは大なる誤なり
(2) 四十五度より(+)、(-)、各五度附近迄は同一分画に於ける射程上の差異は僅少なり
 夫れより弾丸を目標に導かざるは他に大なる原因あり
 即ち目測誤差及び風の影響、弾薬の不良是なり
(3) 擲弾筒の如き曲射弾道の火器と小銃の如き平射弾道の火器とに於いて
 同一角度の増減を以ってする射程上の影響は同日の談にあらず
右の如くなるを以って射角のみ如何に正しくとるも他の影響に依り正しく弾丸を目標に導くこと困難なると共に一方射角の僅少なる誤差は小銃の如く大なる影響を及さざる点に留意するを要す
故に擲弾筒の射角付与の要訣は四十五度にして一定(縦い誤差あるも常に同一方向にして概ね同量)なるを要す


第百三十六 分画の装定並に改装は正確機敏なるを要す
之が為転輪の操作は旋回方向をして心手期せずして逆鉤(ぎゃくこう)筒を移動せしめんとする方向に一致するに至らしむる如く習熟せしむること緊要なり
十年式擲弾筒に在りては駐環の緊定に方り回転筒の回転せざる如く而も敏速に動作し得る如く訓練するを要す

第百三十七 分画を装定するには右掌(てのひら)を以って転輪(※整度器)を回転せしめ逆鉤筒分画指示面を所望分画に一致せしむるものとす
而して十年式擲弾筒用弾薬(※曵火手榴弾)を使用する場合に於いては右方分画を、其の他の場合に於ては左方分画を使用するものとす
十年式擲弾筒の分画を装定するには先ず駐環を緩め回転筒を廻し所望の下方分画を其の矢標に一致せしめ次いで分画の移動せざる如く駐環を確実に緊定するものとす
信号弾射撃に於いては常に最大分画を使用するものとす

分画の装定
柄桿には距離分画が表記されている。
転輪(整度器)を回転させると「撃茎筒」(撃茎が中に入っている)が上下に動く。
撃茎筒」は「逆鉤筒」と「連結筒」によって連結されているため「逆鉤筒」も同様に上下に動く。
逆鉤筒」には引鉄などがついており、引鉄の近くには”分画指示面”がある

柄桿に表記されている距離分画の内の「自分が射撃したい距離分画」を”分画指示面”が指すように転輪を回転して移動させることで分画を装定する。これによって擲弾筒の射距離が決まる。
転輪の操作は「押減ル」、「引増ス」とのこと。

擲弾筒の構造についての詳細は近代デジタルライブラリーで『擲弾筒取扱上ノ参考』が閲覧できるのでそちらを参照のこと。


第百三十八 方向照準を行うには照準面を正しく照準点に指向するものとす照準は通常左眼を以って行うを便とす

照準面⇒眼の位置と方向照準線とを含む垂直面
方向照準線⇒筒身の中央に引かれている線

第百三十九 射角は如何なる場合に於いても心手期せずして四十五度となる如く筒を保持するを要す之が為水平面に対し駐板と左拳との関係位置を常に一定ならしむること緊要なり

第百四十 照準点は通常射手自ら選定すべきものにして射距離に応ずる偏流量を目標の左方に修正して決定し(十年式擲弾筒に在りては偏流の修正を要せず)風ある場合に於いては其の風向、風速に応ずる弾丸の偏移量を偏流量に加減して之を定むるものとす
射撃姿勢を取りたるとき直接目標を通視し得ざる場合に於いては目標と射撃位置とを通ずる線上に仮標を選定し之を基準として前項の要領に依り照準点を決定す

照準及撃発
八九式重擲弾筒は腔綫(ライフリング)が施されている関係上、撃ち出された弾丸は真っ直ぐには飛ばない。
八九式重擲弾筒の腔綫は右転綫なので、弾丸は右回転しながら飛ぶ。右回転の場合は弾丸は右に流れる。この横に流れた量を定偏という。(非常に簡単な説明なので注意)
この定偏を密位で測ったものを偏流と呼ぶ。

正確な説明は『諸兵射撃教範 総則第一部 第一部 第一篇 第一章 第六』を参照。
こちらはアジア歴史資料センターで閲覧可。
 ⇒「JACAR(アジア歴史資料センター)Ref.C01001719200、大日記甲輯昭和14年(防衛省防衛研究所)」

擲弾筒の偏流量も『諸兵射撃教範 総則第一部 第一部 第一篇 第一章 第六』に記述されている。

「諸兵射撃教範総則第一部」
第六 九二式歩兵砲高射界、曲射砲及重擲弾筒に在りては偏流量著しく大にして射距離の増大に伴い漸次減少す』

その具体的な数値(略近値)は以下、

偏流修正量の基準
 100m―200m  40密位
 200m―400m  30密位
 400m―800m  20密位    (諸兵射撃教範 総則第一部 第一表)

300m先の目標を射撃する場合、左に30密位ずらして照準・撃発を行わないと目標に命中しない。
ちなみに、この表はおおまかな数字であり、細かい数値は射表を参照する。(ということが書かれた資料があるので、おそらく擲弾筒にも詳細な射表が存在するのだろう)

また、擲弾筒は初速が小さいため風の影響を受けやすい。そのため、偏流に加えて風も考慮に入れて照準を行わなければならない。

横風1mに応ずる修正量の基準
 200m付近  1密位
 300m付近  2密位
 400m付近  3密位
 500m付近  4密位

300m付近で風速5mの場合、それだけで10密位(3m)も弾が流されることになる。これに加えて偏流も考慮に入れなければならない。仮に左からの風だった場合は12mも右に着弾するということになる。
また、風は真横から吹くとは限らない。斜めから吹くこともあるが、長くなるので割愛。


第百四十一 照準を行うに方り筒の上端眼と照準点とを連ぬる線の上(下)方に在りて照準著しく困難なる場合に於いては頭を上(下)げ或は一時筒を伏(起)す等の方法に依り照準を容易ならしむるを可とす

第百四十二 照準の際照準面垂直ならざるときは照準面の傾きたる方向に射弾を偏移せしむ
斯くの如き過失は筒の方向照準線の上端のみにて照準を行いたる場合に於いて生起し易し


第百四十五 撃発を行うには右手を以って引革(十年式擲弾筒に在りては拉縄)を確実に持ち筒の方向、射角を正確に保持したる儘(まま)之を引く
此の際引鉄の運動に基因する方向並びに射角上の筒の動搖を防止すること緊要なり
之が為先ず第一段(約四十五度)を引き続いて照準面上に於いて一挙に短切なる力を加うるを要す
撃発の際左手を以って過度に力を加え筒の方向を偏ぜざること、撃発の瞬時筒の扛起せざること、撃発せば直ちに引革を放つこと等に注意すべし

撃発の要領
右画像を参照。

2015年2月20日金曜日

基本各個教練(八) 諸兵射撃教範 軽機関銃の据銃・照準・撃発・射法

諸兵射撃教範

軽機関銃

据銃

第三十 据銃の正否は命中の良否に影響すること頗る大なるを以て如何なる場合に於ても確実に実施し得る如く熟練するを要す
又機を失せず発射する為銃を一挙に適当なる位置に接著(せっちゃく)して直ちに照準を開始し得る如く演練すると共に
据銃に方(あた)り銃の指向適当ならざるときは直ちに両肘の開閉、肘の位置或は体全体の移動等に依り之を修正し
速かに照準を開始し得ることに慣熟せしむるを要す

2015年2月18日水曜日

基本各個教練(七) 擲弾筒の射撃姿勢・装填・射撃

基本各個教練

射撃

擲弾筒

第四十二 射撃姿勢を取らしむるには目標(方向)を示し左の号令を下す
     伏射(膝射)
不動の姿勢に在るとき目標(方向)を示さるるや先ず之に正対す

伏射の姿勢
伏射の姿勢を取るには頭を目標の方向に保ち

小銃手の伏射に準じ体を射撃方向に対し約十度に伏臥し

右手にて筒を前に据え右肘を地に著け

左手にて左上より筒身の略々中央を、

右手にて柄桿(へいかん)下部を握り

左臂を伸ばして筒を水平面に対し四十五度に保ち

右手にて引革を握り目標に注目す


膝射の姿勢
膝射の姿勢を取るには頭を目標の方向に保ち

小銃手の膝射に準じ右膝を地に著け

臀を右踵の上に落著け

止板(とめばん)前端概ね左足の内側中央に在る如く筒を据うるの外伏射に準ず








⇒上掲の図は全て最新図解陸軍模範兵教典(1939)のもの。
そのため、図も記述も歩兵操典草案に準じているが、射撃の姿勢の図については、小銃の有無以外に大きな差は無いと思われる。

歩兵操典草案(1937)では、擲弾筒での射撃姿勢をとる際に“銃を置く”という記述があることから、歩兵操典(1940)の施行まで、少なくとも教練の時には擲弾筒手は擲弾筒と小銃の両方を持っていた様である。
(右の2つの画像はどちらも最新図解陸軍模範兵教典のもの。ただし、右は1939年、左は1941年発行のもの)

装填

第四十三 装填は発射の直前に行う
装填するには弾薬手は弾薬を取り安全栓を抜き
装薬室を下にし弾軸を筒身に一致せしめて筒口に嵌(は)
食指にて肩部を圧して筒内に押込む
射手自ら装填するには右手にて弾薬を取り
安全栓(あんぜんせん)の紐を啣(くわ)へて抜きたる後装填す


⇒「安全栓」は信管についている安全装置。ヒモがついているのでそれを引っ張って抜く。
安全栓を抜かなかったり、弾薬を二重に装填したり、装薬室を上にして(弾薬を上下逆に)装填したという例も。

重量(弾量)標識符号
また、擲弾筒の弾薬も野砲などの弾薬と同じように弾量標識符号がついているらしい。(右画像)
ただし、右の画像のものは鋼製弾用のものなので、擲弾筒の弾薬には数値が違う別個の弾量標識符号があるかも知れない

弾量が違うと射撃結果が変化するので符号ごとに揃えておく必要がある。
つまり、運悪く「+」と「-」と「++」の3種類の重さの弾薬が中隊にある場合、第一小隊の擲弾分隊には「+」を、第二小隊の擲弾分隊には「-」を、第三小隊の擲弾分隊には「++」の弾薬。といった具合に分隊ごとに同じ弾量の弾薬を供給する必要がある。


射撃

第四十四 擲弾筒の射撃は指命射及び各個射とす
射撃せしむるには豫め距離分画(ぶんかく)を、榴弾以外の弾薬を使用するときは距離分画の前に弾種を号令す
射手は所命の分画を装し其の結果を報告し装填終れば「準備終リ」と報告す
指命射を為さしむるには例へば左の号令を下す
     第一 撃テ
射手は引革を引きて発射し射弾の方向を観測す
各個射を為さしむるには例えば左の号令を下す
     各個ニ三発 撃テ
射手は最大の速度にて所命の弾数を発射す終れば「撃終リ」と報告す


⇒「指命射」は分隊長が各筒を”指命”して射撃させる射撃方法。
各個射」は各筒が示された弾数を最大の速度で射撃する射撃方法。
それぞれの目的は、
指命射」は、分隊長が示した距離分画で射撃した際の着弾場所の確認のための射撃。
各個射」は、指命射で得られた結果を基に本格的に敵を叩くための言わば本射撃。
砲兵でいう「試射」と「効力射」といったところか。

擲弾筒の射撃は、面倒な分野の一つ。ここではこれくらいの説明で抑えておく。

ちなみに、歩兵操典草案(1937)だと指命射は「単射」、各個射は「連続射」。

不発

第四十五 不発のときは射手は数回引革を引き尚発火せざるときは「不発」と唱え弾薬を抽出す
弾薬を抽出するには射手は転輪を廻わし筒口より弾薬現るるや
弾薬手は信管に触れざる如く確実に之を握り徐(おもむ)ろに抽出し安全栓を挿す

射撃中止

第四十六 射撃を中止するには「撃方待テ」の号令を下す
射撃を止むるには「撃方止メ」の号令にて残弾あるときは之を抽出したる後
射手は距離分画を略々中央に復し右手にて柄桿(へいかん)上部を握り
小銃手の射撃を止むるときに準じ不動の姿勢に復す


⇒擲弾筒の各部名称は右の画像を参照のこと。

※操典中の「止板」は画像中の「支板」のこと。また、「止板」は歩兵操典草案では「駐板」と呼ばれている。
(画像は擲弾筒取扱上ノ参考(1941)のものだが、近代デジタルライブラリーでも確認できる1938年のものだと支板ではなく駐板となっている)


擲弾筒の射撃の詳細は諸兵射撃教範の方で扱っているので別個に扱う。
擲弾筒の筒の保持法・照準・射撃(別のタブ/ウィンドウで開きます)

歩兵操典の続きはこちら。

2015年2月17日火曜日

基本各個教練(六) 軽機関銃の射撃姿勢・充填・号令

基本各個教練


射撃

軽機関銃

最新図解陸軍模範兵教典(1939)
第三十七 射撃姿勢を取らしむるには目標を示し左の号令を下す
但し高射に在りては方向を示し射撃姿勢を取らしめたる後目標を示すことあり
     伏射(高射)
不動の姿勢に在るとき目標(方向)を示さるるや先ず之に正対す
伏射の姿勢を取るには銃に注目して之を体に託し
両手にて脚桿(きゃくかん)を開き
右手にて提把を握り左足を約一歩前に蹈出(ふみだ)
銃把の概ね左足尖の右傍に在らしむる如く目標に対し銃を据え
床尾の両側に両手を著き概ね銃身の方向に一致する如く伏臥し
右手にて握把を握り装填したる後左手にて銃把を下より握り目標に注目す

歩兵隊第一期初年兵教育の参考
⇒図は全部十一年式軽機関銃
上の図の下部の説明は歩兵操典草案の文。

九六式軽機関銃の場合は、前記の操典の文章中にある通り、銃と体の方向は一致し、銃と体は一直線となる。
十一年式軽機関銃の場合は、銃と体の方向は一致しない。銃の構造上、約十度の角度をとることになっている。
(床尾が銃身軸に対して右に曲がっている為、銃と体を一直線にできない)

高射

軽機関銃の高射射撃
高射は二名協同して行う
高射の姿勢を取るには射手は伏射に於ける如く脚桿を開き
右手にて提把を握り銃を前に差出して他の兵に保持せしめ
両膝を開きて地に著(つ)け伏射に準じ銃を保ちて装填し左手にて銃把を下より握る
又他の兵は射手の前方約二歩に正対し両膝を開きて地に著け
射手の差出す銃の脚桿の踵鉄部(しょうてつぶ)を両手にて握り
両肘を外方に張り之を保つ

弾薬充填

第三十九 弾薬を弾倉に充填するには装弾器を取り出し吊紐を首に懸け
弾倉を取出して装弾器に装し押鉄(おしがね)を開き弾薬を撮み出し
次で左手にて弾倉を握り右手にて弾薬を装弾器内に込め
左手の食指にて弾薬を下方に圧し右手にて押鉄を一挙に内方に圧して充填す

※軽機関銃の装填(弾倉の装着)は歩兵操典の第二十九抽出(弾倉の取り外し)第三十に記述されている。

第二十九 (前半省略)軽機関銃を持ち不動の姿勢に在るときは銃に注目して之を体に托し両手にて脚桿を開き右手にて提把を握ると同時に左足を約一歩前に蹈出し銃を据え
右膝を地に著け右手にて提把を握り左手にて槓桿を引き之を旧に復し
弾倉室蓋を開き弾倉を装し安全装置にし右手にて提把を握り銃を取り
右足を左足に引き著けて起ち両手にて脚桿を閉じ不動の姿勢に復す

第三十 (前半省略)軽機関銃を持ち不動の姿勢に在るときは装填に準じ姿勢を取り
右手にて握把を握り注目して撃発装置にし
左手にて槓桿を引き之を旧に復し弾倉止を前方に圧しつつ弾倉を握りて前上方に脱し
残弾なきを確かめ槓桿を引き之を保ち
引鉄を引きて遊底を静かに前進せしめ弾倉室蓋を閉じ右手にて提把を握り装填に準じ不動の姿勢に復す

射撃号令

第四十 射撃は通常点射(三乃至五発)を用い時として連続点射を用う
射撃せしむるには予め射距離(照尺)、要すれば射向修正量、照準点を号令す
照尺、横尺(おうしゃく)に依るときは射手は之を装し其の結果を報告す
点射を反復〔移動〕せしむるには発数を示し左の号令を下す
    撃テ〔右(左)ヨリ撃テ〕
射手は概ね示されたる発数宛(づつ)発射す
連続点射を為さしむるには「連続撃テ」の号令を下す

射撃中止

第四十一 射撃を中止するには「撃方待テ」の号令にて据銃前の姿勢に復す
射撃を止むるには「撃方止メ」の号令にて射手は床尾を肩より下ろし
槓杆(こうかん/てこ)を引き之を旧(もと)に復し注目して安全装置にし
照尺、横尺を旧に復したる後
伏射に在りては頭を目標の方向にし銃を置きたる儘(まま)右脚を曲げ
両手を著き左足を約一歩前に蹈(ふみ)出し床尾の左側に起ち、
高射に在りては左手にて銃把を握り右手にて提把を握り銃を地に置きて起ち、
脚桿を保持する兵は射手提把を握るや姿勢を取りたるときと概ね反対の順序にて起ち
不動の姿勢に復す


据銃、射撃の詳細は『諸兵射撃教範』の分野なので別個に扱う。
軽機関銃の据銃・照準・撃発ほか(別のタブ/ウィンドウで開きます)

歩兵操典の続きはこちら。

2015年2月14日土曜日

基本各個教練(五) 諸兵射撃教範 小銃の据銃・照準・撃発

歩兵銃の各部名称
諸兵射撃教範

据銃

第十一 据銃の要は照準、撃発間銃を動搖せしめざる如く之を臂上に安定せしむるに在り
膝射、伏射及逆射の姿勢に於ける据銃の要領及び其の要点概ね第一乃至第六図の如し
立射の姿勢に於ける据銃の要領は膝射に於けるものに準ず

2015年2月12日木曜日

基本各個教練(四) 小銃の射撃姿勢

基本各個教練

射撃 要旨

第三十一 射撃は兵の動作中特に緊要なり故に綿密周到に教育し戦闘の為確乎たる基礎を作るを要す但し逆射(さかうち)の姿勢は其の要領を、立射の姿勢は単に其の概要を修得せしむるを以って足る
射撃教育に方(あた)りては装面して演練すること亦必要なり

第三十二 良好なる射撃姿勢は精熟せる据銃、照準、撃発と共に命中を良好ならしむるの基礎なり
射撃姿勢は兵の体格に良く適応し常に堅確にして而も凝ることなく自然の状態に在るを要す

小 銃

第三十三 射撃姿勢を取らしむるには目標を示し左の号令を下す但し対空射撃に方りては方向を示し射撃姿勢を取らしめたる後目標を示すことあり
     伏射(膝射)(逆射)(立射)
不動の姿勢に在るとき目標(方向)を示さるるや先ず之に正対す

伏射ノ姿勢(ねうち-の姿勢)

伏射の姿勢を取るには頭を目標の方向に保ち
左手にて弾薬盒を左右に開き
左足の約半歩右足尖の前に蹈(ふみ)出すと同時に上体を半ば右に向け
右膝より地に著け

左手を前に出し地に著け体を射撃方向に対し約三十度に伏臥(ふくが)
同時に右手ニて銃を前に出し左手にて概ね銃の重心の所を握り指を銃床の溝に置き
装填したる後右手にて稍々下より銃把を握り之を腮(あご)の稍前にし両肘を地に支え目標に注目す








膝射ノ姿勢(ひざうち-の姿勢)

膝射の姿勢を取るには頭を目標の方向に保ち
左手にて弾薬盒を左右に開き
左足を伏射に於ける如く蹈出(ふみだ)すと同時に上体を半ば右に向け



左手にて銃鞘を前に払い
右脚を曲げ其の股(もも)を目標の方向と概ね直角に平に地に著け
(しり)を右足の後ろにて地に著け
左脚を立て同時に右手にて銃を前に倒し
左手にて概ね銃の重心の所を握り

指を銃床の溝に置き其の前臂(ひじ)を左膝の上に置き
床尾板を右股(みぎもも)の内側に当て装填したる後
右手にて概ね右側面より銃把を握り
上体を自然の方向に概ね真直に保ち目標に注目す


逆射ノ姿勢(さかうち-の姿勢)

逆射の姿勢を取るには膝射に準じ
臀を地に著けつつ左手にて概ね銃の重心の所を握り
指を銃床の溝に置き仰臥(ぎょうが)
床尾を右腋下にし床嘴(しょうし)を地に著け
銃口を上にし装填したる後右手にて概ね右側面より銃把を握り
銃を地面に対し約六十度に保つ
後盒を有するときは先ず左手にて左に廻す

※左は青年教練指導草案 第一巻、右は青年学校教練教本

⇒1940年歩兵操典以前の操典の規定では銃は地面に対し約三十度となっている。
この図が載っている教本も1940年より以前のものなので、変更前の「地面に対し約30度」に準じているため注意。
また、逆射の姿勢は「据銃」の図で解説されているものがあるのでその点も注意。

立射ノ姿勢(たちうち-の姿勢)

立射の姿勢を取るには頭を目標の方向に保ち
右足尖にて半ば右に向きつつ左脚を約半歩左前に蹈出し
同時に右手にて銃を上げつつ前に倒し
左手にて概ね膝射の如く保ち
床鼻を右乳より少しく下にし床尾を体に接し
装填したる後右手にて概ね右側面より銃把を握り目標に注目す


射撃姿勢を取りたるとき逆射以外の姿勢に在りては銃口を概ね眼の高さにす
何れの姿勢に在りても右手の食指(ひとさしゆび)を用心鉄(ようじんがね)の内に入れて伸ばし
装填しあるときは撃発装置にす
又姿勢を取りたる後不具合を感ずるときは速かに修正す
膝射に在りては体格に依り臀を右足の上に載す

第三十五 射撃せしむるには予め照尺(射距離)を示し左の号令を下す
     撃 テ
連続して射撃を行う而して装填する毎に弾薬盒を閉じ留革を掛く

第三十六 射撃を中止せしむるには左の号令を下す
     撃方待テ
据銃前の姿勢に復し次発の準備を為す
射撃を止(や)めしむるには左の号令を下す
     撃方止メ
注目して安全装置にし照尺を旧(もと)に復し頭を目標の方向にし

伏射に在りては姿勢を取りたるときと概ね反対の順序にて上体を起し
左脚を約一歩前に蹈(ふみ)出して起ち
右足を引き著け弾薬盒を旧に復し、

膝射に在りては右手にて木被(もくひ)の所を握りて起ち
目標の方向に向きつつ右足を左足に引き著け
弾薬盒を旧に復し、

逆射に在りては右手にて体を起し
姿勢を取りたるときと概ね反対の順序にて起ち
右足を左足に引き著け、

立射に在りては右手にて木被の所を握り
左踵にて目標の方向に向きつつ右足を左足に引き著け不動の姿勢に復す



以上、歩兵操典の第一章 基本 第四節 射撃 要旨 小銃(狙撃眼鏡装脱は省略)
照準、撃発間の姿勢は「据銃(きょじゅう)」と言う。
据銃」は歩兵操典ではなく「諸兵射撃教範 第二部」の方で扱われているので、歩兵操典中の記述は少ない。この辺りは別個に扱うことにする。

2015年2月10日火曜日

基本各個教練(三) 著剣・脱剣・装填・抽出

基本各個教練
学校教練必携 前編 (術科之部)の図<Ⅰ>

著剣(ちゃくけん)

第二十七 著剣せしむるには左の号令を下す
     著ケ剣(つけけん)
不動の姿勢に在るときは右手にて小銃(軽機関銃)を左に傾け銃身を少しく右に銃口を概ね体の中央前にし
左手にて柄を逆に握りて銃剣を抜き
注目して確実に銃口(規整子)の所に著け
両手にて銃を起し不動の姿勢に復す

<Ⅰ>の図
脱剣(だつけん)

第二十八 脱剣せしむるには左の号令を下す
     脱レ剣(とれけん)
不動の姿勢に在るときは右手にて小銃(軽機関銃)を左に傾け注目して左手にて銃剣の柄を握り
右手を上げ拇指(おやゆび)にて駐子を押し
左手にて銃剣を脱し



<Ⅰ>の図
之を右の方に倒して剣尖を下にし
右手の食指、中指と拇指(右手の食指と中指)とにて刀を挾み持ち他の指にて銃を保ち
左手を翻して柄を握り銃剣を鞘に納め左手にて右手の下を握り
右手を下げて木被(もくひ)の所を握り(左手にて銃口の下を握り)両手にて銃を起し不動の姿勢に復す


装填

第二十九 装填せしむるには左の号令を下す
     弾薬ヲ込メ
不動の姿勢に在るときは銃口を左前上にする如く右手にて銃を概ね体の中央前に上げ
左手にて概ね銃の重心の所を握り
其の臂(ひじ)を体に著け指は銃床の溝に置き
床鼻を右乳の右下にし床尾を体に接し
注目して右手にて槓桿を握り之を起しつつ十分に引き
弾薬盒(だんやくごう又はたまいれ)を開き
弾薬を撮(つま)み出し挿弾子溝(そうだんしこう)に嵌め拇指の頭を弾薬の後部に当て弾倉内に押入れ
次で遊底を閉じ安全装置にし弾薬盒を閉じ留革(とめかわ)を掛け
木被の所を握り不動の姿勢に復す

<Ⅰ>の図

抽出

第三十 弾薬を抽出せしむるには左の号令を下す
    弾薬ヲ抽ケ
不動の姿勢に在るときは装填に準じ銃を構え
注目して右手にて弾薬盒を開き撃発装置にし
左手を尾筒の所にし其の四指を伸ばして方窓部(ほうそうぶ)に当て
遊底を静かに進退して弾薬を出し弾薬盒に納む
弾薬を出尽くせば残弾なきを確め
左手の指にて受筒板(たまうけ)を圧し
遊底を閉じ引鉄を引き弾薬盒を閉じ留革を掛け右手にて木被の所を握り不動の姿勢に復す

 <Ⅰ>の図


以上が歩兵操典の第一章 基本 第三節 着剣、脱剣、小銃及軽機関銃ノ弾薬ノ装填、抽出(軽機関銃関連は省略)


2015年2月8日日曜日

基本各個教練(二) 担銃・立銃・行進

基本各個教練

擔銃(担銃)

第十八 担銃を為さしむるには左の号令を下す
    担へ銃(になえつつ)

右手にて銃を上げ銃身を概ね右に且つ垂直にし
拳を略々肩の高さにすると同時に左手にて照尺の下を握り

銃身を半ば前に向け
銃を少しく上ぐると同時に右臂を伸ばして食指と中指との間に床尾踵を置く如く床尾を握り
銃を右肩に担い銃身を上にすると同時に左手を遊底の上に置き
右上膊を軽く体に接し床尾の環を体より約十糎離し
銃を上衣の釦の線に平行せしめ
槓桿(てこ/こうかん)の高さを概ね第一、第二釦の中央にし
左手を下ろす










(図は青年教練指導草案 第一 <Ⅰ>)
立銃

第十九 担銃より立銃を為さしむるには左の号令を下す
    立テ銃(たてつつ)
右臂を伸ばして銃を下げ銃身を半ば右に向け
且つ概ね垂直にすると同時に左手にて照尺の下を握り
銃を少しく下げ銃身を右にすると同時に右手にて木被(もくひ)の所を握り
其の拳を略々肩の高さにし銃身を後ろにし之を下げ腰に支え同時に左手を下ろし
銃を静かに地に著(つ)

学校教練必携 前編(術科之部)<Ⅱ>の担銃の図

⇒立銃は担銃の動作を反対から行えば良い。

速歩行進

第二十 行進は勇往邁進の気概あるを要す
速歩(はやあし)の一歩は踵より踵まで七十五糎を、速度は一分間百十四歩を基準とす
速歩行進を為さしむるには左の号令を下す
    前へ 進メ

<Ⅱ>の徒手での速歩行進の図及び歩兵隊第一期初年兵教育の参考(1936)の執銃での速歩行進の図

<Ⅰ>の図
予令にて担銃を為し動令にて左股を少しく上げ
脚を前に出し之を伸ばしつつ蹈著(ふみつ)
同時に概ね膕(ひかがみ)を伸ばし体の重みを之に移す
左足を蹈著くると同時に右足を地より離し左脚に就て示せる如く右脚を前に出して蹈著け行進を続け
頭を真直に保ち左臂(徒手に在りては両臂)を自然に振る



<Ⅰ>の図
停止

第二十一 停止せしむるには左の号令を下す
     分隊 止レ
後ろの足を一歩前に蹈出し次の足を引き著けて止まり立銃を為す






<Ⅰ>の図
行進間右(左)向

第二十二 行進間右(左)向を為さしむるには左の号令を下す
     右(左)向け前へ 進メ
左(右)足尖(あしさき)を内にして約半歩前に蹈著(ふみつ)け体を右(左)方に向け右(左)足より新方向に行進す


<Ⅰ>の図
行進間後向

第二十三 行進間後向を為さしむるには左の号令を下す
     廻はれ右前へ 進メ
左足尖を内にして約半歩前に蹈著(ふみつ)け両足尖にて後ろに廻り続いて行進す





<Ⅰ>の図
歩調止メ

第二十四 速歩行進間歩調を止めしむるには左の号令を下す
     歩調止メ
正規の歩法に依ることなく速度の歩長と速度とにて行進す
再び正規の歩法を取らしむるには「歩調取レ」の号令を下す


⇒「速歩」は、腿を挙げて膕を伸ばして脚を踏みつける歩き方。
「歩調止め」の号令で歩幅や速度をそのままに、姿勢を崩さず普通のように楽に歩く。

駈歩行進

第二十五 駈歩(かけあし)の一歩は踵より踵迄約八十五糎、速度は一分間約百七十歩とす
駈歩行進を為さしむるには左の号令を下す
     駈歩 進メ
<Ⅰ>と<Ⅱ>の駈歩行進の図

予令にて担銃を為し剣鞘(けんざや、鞘の字は歩兵操典の原文では”革へんに室”)を握り(徒手に在りては右手を握り腰の高さに上げ肘を後ろにすると共に左手にて剣鞘を握る)
動令にて両足を少しく屈めて右股を僅かに上げ前に蹈著(ふみつ)け次いで右脚を前に出し
体の重みを常に蹈著けたる足に移し左臂(徒手に在りては両臂)を自然に振り続いて行進す

 最新図解陸軍模範兵教典(1941)の図

停止するには「分隊 止レ」の号令にて二歩行進し後ろの足を一歩前に蹈出し次の足を引き著けて止まり立銃を為す(徒手に在りては剣鞘を放つと共に右手を下ろす)
速歩に移るには「速歩 進メ」の号令にて二歩行進し速歩に移ると共に剣鞘を放ち続いて行進す
(徒手に在りては剣鞘を放つと共に右手を下ろす)

駈歩間ノ諸動作

第二十六 駈歩行進間の諸動作は速歩行進間に於ける要領に準ず
但し速歩に於けるよりも二歩多く行進したる後動作す


以上が歩兵操典の「第一章 基本 第二節 擔銃、立銃、行進」の内容。(一部省略)
また、歩兵操典では詳しく記述されていないものもいくつかある。
※歩兵操典草案では記述があったが、歩兵操典になって削られたものもある。

途歩(みちあし): 「歩調止め」と似ているが、必ずしも歩調を揃えなくて良い。また、話をすることも許される

足蹈(足踏み):その場で足踏み

蹈替(踏み替え):歩調がずれたときに他の人に合わせるために行うあの行動。
「速歩の踏替は左足を踏みつけると同時に、右足を左足の後ろに引きつけて、左足から踏み出す。此の動作を一挙動でやるのである。右足を使ってもよい。駈歩の踏替は片足でトン/\と二歩前進し反対の足から行進すればよい。踏替の号令はない。足の違ってゐる者は自分で踏替をするのである。」(最新図解陸軍模範兵教典)

斜行進:号令「斜に右(左)へ 進メ」
左(右)足を約半歩前に足先を内にして踏みつけ、体を半ば右(左)に向け、右(左)足より新方向へ行進す
斜行進から直行進にするには、号令「斜に左(右)へ 進メ」

折敷」と「伏臥」は、もっと先、第二篇の中隊教練に記載されているが、各個教練でも使われているようなのでここでも触れる程度に扱う。

折敷(おりしけ) :号令「折敷」
伏臥(ふせ) :号令「伏せ」
左が<Ⅱ>の折敷の図と解説、右が<Ⅰ>の伏臥の図と解説

折敷と伏臥から起立させるには号令「起て」