各個教練
第十二 各個教練の目的は兵を訓練して諸制式及び諸法則に習熟せしむると同時に軍人精神を鍛え軍紀を練り部隊教練の確乎たる基礎を作るに在り
第四十九 戦闘各個教練は兵をして散兵の動作に必要なる基礎を得しむるを目的とす之が為敵に対し地形地物を利用して前進し停止し射撃し突撃することに習熟せしむると共に特に攻撃精神を養成し以って自ら信じて戦闘し得るの能力を与うるを要す
歩兵操典では各個教練は、「第一章 基本」、「第二章 戦闘」、「第三章 夜間ノ動作」、「第四章 戦闘間兵一般ノ心得」で構成されている。
「基本」は、不動の姿勢や行進や執銃、着剣から基本的な射撃と射撃姿勢などの教練。
「戦闘」は、運動・射撃・突撃、つまり、匍匐前進、応用姿勢での射撃や地形等を利用した射撃、突撃などの教練。
「夜間ノ動作」と「戦闘間兵一般ノ心得」はその題名の通り。最初は各個教練の「基本」から扱うことになる。
この歩兵操典、残念なことに不動の姿勢などを始めとする基本的な動作が、実際にどのような姿勢なのか等を理解できる図が記載されていない。
初年兵の指導者向けの参考書等には無いこともないのだが、参考程度に一枚の小さな写真を載せて、後は全て文章で説明。といったものであったりする。当時を生きた帝国陸軍の軍人や学校教練で動作を経験している当時の学生ならいざ知らず、現代を生きる人間には、このような文章中心のものだと非常に理解しづらい。
現在、小学校~高等学校の体育等で並んで行進したり、号令で何か動作を行うが(集団行動と呼ぶ)、これは終戦まで中等学校以上で行われていた学校教練の名残である。
この学校教練の内容も軍の典範令を元にしているので、軍で行う教練とほぼ同じものである。従って、軍隊の教練の説明にも使える。
そして、この学校教練を解説する参考書は、軍の教練の参考書よりも図が豊富である。
ということで、図は学校教練用の書籍が中心となる。
学校教練は、前述の通り軍の典範令を元にしているので、基本的に軍隊のものと同じ姿勢・動作を行い、その参考書の編纂や執筆は陸軍省や在郷軍人会など、軍隊関係者が行っている場合がほとんどだが、一応「軍のものではない」ということは了解しておいて欲しい。
また、なるべく多くの画像を使用することに努めた為、歩兵操典の改正前、つまり大正期~昭和一桁の頃に出版された書籍からの画像の借用が多くなった。一応確認は行い、昭和15年歩兵操典の記述と違う点がある場合は注意書き等をしておいた。
基本教練は、操典が改正されても内容がほとんど変化しない部分なので、改正前の画像でも特に問題ないとは思うが、細部が違う可能性が全く無いわけではないので、その点は一応注意していただきたい。
基本各個教練
不動ノ姿勢
第十五 不動の姿勢は軍人基本の姿勢なり故に常に軍人精神内に充溢し外厳粛端正ならざるべからず
不動の姿勢を取らしむるには左の号令を下す
気ヲ著ケ
『青年教練指導草案 第一巻』(1931)<Ⅰ> 右図では両足を正確に60度に開くため、△の線が地面に引かれている
『学校教練必携 前編(術科之部)』(1936)<Ⅱ>及び『青年学校教練教本』(1935)<Ⅲ>の図
執銃教練の際の不動ノ姿勢
<Ⅰ>、<Ⅱ>、<Ⅲ>の図 ちなみに<Ⅱ>の図の解説は歩兵操典とほぼ同じ文章
休憩
第十六 休憩せしむるには左の号令を下す
休メ
先ず左足を出し爾後片足を旧(もと)の所に置き其の場に立ちて休憩す
此の際照星を擦らざる如く銃を保つ休憩中許可なく話すことを禁ず
<Ⅰ>、<Ⅲ>の図
右(左)向
第十七の一、二 右(左)向又は半右(左)向を為さしむるには左の号令を下す
右(左)向け 右(左) 又ハ 半右(左)向け 右(左)
右手にて銃を少しく上げ腰に支え左踵にて九十度又は四十五度右(左)に向き銃を静かに下ろす
左と中央が最新図解陸軍模範兵教典(1941)の図、右は<Ⅰ>の図
後向
第十七の三 後向を為さしむるには左の号令を下す
廻はれ 右
<Ⅰ>の図
以上が歩兵操典の第一章の第一節の内容。
当たり前のことだが、軍隊の教練は学生の教練よりも注文が多い。
学校教練は”それなりの出来”でも許されるが、軍隊ではそうは行かない。
その理由は「軍隊だから」で説明がつくだろう。
『最新図解陸軍模範兵教典』ではその点に触れているのでついでに紹介しておこう。
それによれば、軍隊の教練と学校の教練は動作は同じでもその目的とすることが違うのだという。
曰く、
「青年学校の教練はそれによって、体力、気力を養成するのが第一の目的であるから技倆は第二段である。然るに軍隊の教練は実戦本位であって、体力、気力の養成は勿論、腕を十分に磨かねばならぬから、不動の姿勢の足の揃え方、廻れ右の足の引き方等でも一分一厘疎かにできないのである。
土台がしっかりしている家は、地震にもビクつかない。基礎となる各個教練を確かり覚え込めば部隊教練は立派なものが出来る。」
ということらしい。
ネット上何処にも言及なきを以て一筆啓上仕る。父より相伝賜つた右向け左向けは1拍、回れは2拍と、当時の欧米及び現代の全世界共通の官憲動作より1拍早い動作であつた。気をつけは「そんな間抜けな人形の気を付けがあるかつ。隙だらけではないか。肘を完全に伸ばしてはならぬどうなるか見ろ。」と羽交い締めを食つた。肘をやや曲げウエストを左右から絞めるように押し当てよと。再度羽交い締めを試み。脇に手を差し込めないのを確認し、父は宜しいつと叫んだ。一事が万事、帝國陸軍は侍して隙無し。号令一下ひとたび動けば後の先とならねばならぬ。この心がけが基本動作の神髄である。と結び、この伝習は生涯一度しか教授戴けなかつた。もしか此を見る各位におかれては上記の奥義を体得し子々孫々に伝承方宜しく頼みたい。
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