2015年2月24日火曜日
旧式手榴弾の操法
大正14年(1925)の『教練指針 下巻』(学校教練用の冊子)に、十年式手榴弾の採用以前に使用されていた旧式(ここに掲載するのは大正期の手榴弾)のヒモを使って投擲するタイプの手榴弾の扱い方が記載されていたので、読みやすく調整してここにご紹介。
第十一編 手榴弾投擲法
通 則
第一 手榴弾は、近接戦で、其の爆発に依って、敵を殺傷するため、使用するものであって、我小銃火の威力を、発揚すること不可能の場合に、用いるときは特に有利である。
第二 手榴弾の使用は、通常投擲に依るものである、然れども時としては、障碍に利用することがある。
第一章 手榴弾の種類
制式手榴弾
第三 制式手榴弾は、全備重量約五〇〇瓦であって、左の諸部からなる。(第一図)
弾体 銑製の円筒体であって、頭部に木管室及護謨輪室を、中部に炸薬室を、後部に木底室を設くる。
炸薬 黄色薬約三〇瓦を紙包みにしたもので、上面に雷汞(らいこう)筒室を設けて、弾体内に装する。
木底 木栓であって、頭部を弾体後部に嵌装(がんそう)する。
雷汞筒 薬莢に雷管を装し、其の内部に雷汞一瓦を収め、錫箔、蝋塞及び紙塞を以って閉塞し、更に口部を緊縮したものであって、炸薬上面の雷汞筒室に挿し入れて、木管及び護謨輪で、之を弾体に保定する。
撃発具 中央に撃針を銲著(おそらく「かんちゃく」)した、黄銅製の壺状体であって、撃針は弾体上部の木管、及び護謨輪中に装定して、壺状体の下部は、弾体上部の小孔に、貫通する安全子で支えられて、雷管と撃針との触接を絶つ。
弾尾 藁、若くは棕櫚(しゅろ)縄の両端を総状として、其一端末を、木底及び弾体に正しく冠装し、木底の桿状部と、弾体の環状部とに、麻糸で括り、其の端を反折して、更に前と同一の部分に、之を緊束し、余端を剪除する。
演習用手榴弾
第四 演習用の手榴弾は、全備重量約五〇〇瓦であって、其の構造は、爆薬が無いだけが(おそらく「で」の誤植)、略々制式手榴弾と同じである、けれ共、弾体内雷汞筒の周囲に、制式手榴弾の様な、薬室状を与え、外壁に噴火孔を穿ち、且つ木底中心にも、円孔を貫通して、薬莢の抽出に簡便であるだけの相違である。(第二図)
薬筒は、薬莢に雷管を装し、黒色小粒薬約〇瓦六を填実したもので、演習用手榴弾内に装置して、投擲の練習に方(あた)って、主として命中角度の正否を検するの用をする。
第二章 手榴弾の投擲
要 則
第五 手榴弾は、状況特に、目標の位置、地区、地物の状態、及び投擲距離の大小等に応じて、弾尾を持ち、或いは弾体を握り、立姿、膝姿、又は伏姿で、之を投擲するものである、然れども、状況之を許すときは、成るべく立姿に依るがよい。
第六 手榴弾は、目標の近いときは、弾体を握り、又は弾尾を短く持ち、遠いときは弾尾を長く持って、投擲するのが常である。
第七 行進間で、手榴弾を投擲するには、通常立姿を用いて、其の瞬間に停止するものである、但し駈歩間では、行進速度を利用して、投擲してもよい。
第八 遮蔽物の背後に、位置する目標に対しては、斜方向から投擲するがよい。
第九 散兵壕内から胸墻(きょうしょう)に直交して、投擲する場合は、壕幅狭いときは、後崖の一部を掘り拡げ、又は斜に削りて、投擲に便利にすることがある、又蹈垜(おそらく「ふみあずち」)の幅狭いときは、適宜之を増大し、或いは内斜面脚に、左足を置くように孔を穿閉するがよい。
第十 手榴弾の、最大の投擲距離は、立姿で弾尾を持ち、投擲する場合、中等の投擲手に在っては、約四〇米〇〇を標準とし、其他の場合に在っては、投擲の方法に依り差異がある、然れ共、前に較べて、著しく其の距離を減ずる、而して、落角は約五十度内外を適当とする。
第十一 手榴弾の投擲は、指揮官の号令、命令、又は記号に依って行うものである、然れども、投擲の姿勢は、目標と、状態と、距離とに応じて、適宜投弾手の選択に委することが多い。
第十二 部隊が、手榴弾を投擲するには、定規の散開隊形でするを通常とする、時としては、一層広き間隔を取ることがあり、又如何なる場合でも、一歩以下に、其の間隔を縮小することを許さぬ、是投擲操作を不便にし、且つ隣兵に危害を及ぼすの、虞(おそ)れがあるからである。
第十三 手榴弾は通常、敵に迫って、急遽に之を投擲するのであるから、特に自若(じじゃく)として、其の覷(音:キョ、シュ など 訓:うかがう、みる など。ルビなしのため詳細不明)を定めて、必中を期せなければならぬからして、其の携行する弾数は、通常多くない方が特によい。
手榴弾の投擲は、必ず十分なる効果を、予期するときに行い、勉めて其の節用を図るがよい、之が為、指揮官は、必要と思えば、投擲に方り、其の投弾手を指定し、或いは連続に、投擲すべき弾数を示すことがある。
第十四 手榴弾は、各種の方向、及び距離に在る目標に対して、力及び操作の加減に依って少なくも、目標を中心とする、半径五米〇〇の圏内に到達する様、其の投擲法を練習させるがよい、特に目視する事が出来ぬ目標に対して、練習する場合に在っては、教官は弾著を観測して、其の躱避(だひ)を指示し、之を修正させることに注意するがよい。
第十五 手榴弾投擲の練習は、先ず徒手立姿で、弾尾を持ち、投擲する要領を十分に会得させて、次いで其の他の場合に及ぼし、又部隊でする練習は、兵卒略々各個の投擲法に熟練した後、之を行うものである。
弾尾を持ち投擲する方法
第十六 弾尾を持ちて、手榴弾を投擲させるには、予め左の号令を下して、投擲の準備を為さしむ。
投げ方用意
兵卒は、銃を左手に移すと共に、手榴弾一箇を右手に持つ。
第十七 立姿で、投擲の姿勢を取らせるには、兵卒に目標を指示して、左の号令を下す。
立姿投
兵卒は、先ず目標に面し、次いで頭を其の方向に保ったる儘、右向をしつつ、右足を新線上の右方、半歩の所に蹈開(ふみひら)き、銃を左臂に托して、左手で弾体を握り、右手で安全子を抽きたる後、投擲距離に応じ、更に右手で、適度の長さに弾尾を握り、静かに弾を垂下し、銃を左手に復す(徒手に在りては、弾を垂下する事なく、左肘を軽く体に接した儘、弾体を左手の掌上に載す。)
第十八 立姿で、投擲させるには、左の号令を下す。
投 げ
垂下しある弾体を、目標に通ずる垂直面内で、第四図其一、其二に示す通り、後方に振り(徒手に在りては、左手で弾体を、右臂の旋回に伴うように、上方に押し上げつつ之を放つ)右拳を肩の稍々後方に持ち来って、之を右臂の後方に垂下す、此の際、弾体及び弾尾並び右前臂の内側は、之を同一の垂直面内に在らしめ、又上体を右側面に屈し、体重を右足に移し、両膝を少しく屈ぐ、而して左臂は、銃を持った儘、目標の方向に伸ばし、自然に之を挙ぐ、是に於いて、両臂及び体の再び旧位に復さんとする力を、弾体に作用せしめて、弾尾を緊張した儘、高く振り出し、弾尾の略々水平となったとき、強く力を加えて投擲する。
次いで兵卒は前の様に連続投擲する、但し第二弾以後の安全子の抽出は、第十七の要領に依る、若し弾数の制限を必要とする場合に在っては、「投げ」の次に「何発」の号令を加うる、然るときは兵卒は、所命の弾数を投擲した後、次発の準備を為すことなく、後命を待つ。
第十九 第十八第一項の操作は、手榴弾投擲法の基礎であるから、特に注意して、十分に、其の要領を会得させるがよい、之が為に最初は徒手に依って、弾を投擲することなく、左手に持った、弾体を押し放ち、右前臂の後方に垂下して、停止するや、直に之を反撥して、左手に復せしめ、反覆施行して、円運動に於ける弾、臂、体の関連操作に慣熟させて、次いで弾尾を手から放つ時機を、会得させるのである。(第五図)
而して、此の操作に於いて、左手を正しく、目標の方向思考せしむるときは、右手は自然に左手の方向に作用し、従って弾を、目標方向に投擲させるものである。
兵卒略々以上の関連操作に習熟するときは、左手を用いないで弾を投擲させるがよい。
第二十 膝姿で、投擲の姿勢を取らしむるには、兵卒に目標を指示し、左の号令を下す。
膝姿投
兵卒は、先ず、銃を体の左側に地上に置いた後、目標に面し、次いで頭を其の方向に保った儘、右向をし、両膝を少しく開きて跪き、両足尖を立て、臀部を踵から離す、次いで第十七と同一の方法に依って、安全子を抽き、右手で弾尾を持ち、左手の掌上に弾体を保つ。
第二十一 膝姿で、投擲させるには、左の号令を下す。
投 げ
第十八と同一の方法に依って投擲する。(第七図其一、其二)
第二十二 伏姿で投擲の姿勢を取らせるには、兵卒に目標を指示して、左の号令を下す。
伏姿投
兵卒は、先ず、銃を体の左側に地上に置いた後、目標に面し、両膝を地に著け、直に左手を、概ね右膝の前に出し、地に著け、目標の方向に伏臥し、両肘を地に支え、第十七と同一の方法に依って、安全子を抽き、右手で弾尾を持ち、左手の掌上に弾体を保つ。(第八図)
第二十三 伏姿で投擲させるには、左の号令を下す。
投 げ
第十八と同一の方法にて、投擲する、但し右脚を、左脚の後方に移すと同時に、上体を右側面向に起こし、且つ左手で、弾体を上方に押し上げると共に、上体を起こして投擲する。(第九図)
第二十四 投擲を中止させるには、左の号令を下す。
投げ方待て
兵卒は投擲姿勢の儘、次発の準備をする。
第二十五 投擲を止めさすには、左の号令を下す。
投げ方止め
兵卒は静かに安全子を結合した後、旧姿勢に復する。
弾体を持ち投擲する方法
第二十六 弾体を持って、投擲する方法は、弾尾を持って投擲する要領と同一である。
弾体を握るには、食指の第一節を、弾の後部に当て、拇指と中指とで弾体を挾み、其の他の指は軽く之に添え、弾尾を食指と、中指との間に垂れるものである。(第十図)
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