2015年2月20日金曜日

基本各個教練(八) 諸兵射撃教範 軽機関銃の据銃・照準・撃発・射法

諸兵射撃教範

軽機関銃

据銃

第三十 据銃の正否は命中の良否に影響すること頗る大なるを以て如何なる場合に於ても確実に実施し得る如く熟練するを要す
又機を失せず発射する為銃を一挙に適当なる位置に接著(せっちゃく)して直ちに照準を開始し得る如く演練すると共に
据銃に方(あた)り銃の指向適当ならざるときは直ちに両肘の開閉、肘の位置或は体全体の移動等に依り之を修正し
速かに照準を開始し得ることに慣熟せしむるを要す

第三十一 据銃の要は連続発射間照準線を正確に保持するに在り
据銃の要領及其の要点概ね第十乃至第十四図の如し

九六式軽機関銃

十一年式軽機関銃(右の第二十五図は『小銃、軽機関銃、拳銃射撃教範』1929年


飛行機に対する射撃

第三十二 飛行機に対する射撃に於て軽機関銃に仰角(ぎょうかく)を与ふるには一名の弾薬手其の脚桿(きゃくかん)を保持するか
又は附近の地物或は所在の材料を利用し之に銃を依托するものとす
弾薬手の脚桿を保持する場合に於ける据銃の要領第十五及第十六図の如し

九六式軽機関銃

十一年式軽機関銃(どちらも『小銃、軽機関銃、拳銃射撃教範』1929年

腰狙射撃

射教範第四部

附録 其ノ三 腰狙射撃

第一 森林、市街、村落及壕内等に在りて不意に敵と衝突し
正規の射撃姿勢を取るの遑(いとま)なく且一挙の突入困難なる場合等に於いては腰狙(こしねらい)射撃を行うを要することあり

第二 腰狙射撃は小銃、軽機関銃等を以って或は行進中或は瞬間停止し之を行うものにしてその要領概ね左の如し

軽機関銃
 概ね小銃に準ず但し左手は九六式軽機関銃に在りては提把(ていは)を握り
 十一年式軽機関銃に在りては握革(にぎりかわ)を添へて銃身を握るものとす
 此の際「ガス」漏孔(ろうこう)を塞がざる如く注意し
 又小銃に比し反撞(はんどう)の為銃口扛起(こうき)し易きを以って
 之を防ぐ為体重を左足に懸くるを要す

第三 腰狙射撃は物質的効果を十分期待し難きを以て之が濫用を戒むると共に機を失せず突入するを緊要とす

概ね小銃に準ず日本軍の基本各個教練(五)



照門、照尺は尾筒の文字の下の辺り(円型の部分が照尺の転輪)
照準

第三十三 九六式軽機関銃の照準は眼鏡照準具又は照門、照星を以って行う
眼鏡照準具を以って照準を行うには射距離に応ずる眼鏡内の距離目盛と縦線との交点を正しく照準点に向くるものとす
照門、照星を以って照準を行うには射距離に応ずる照尺を装し要すれば横尺(おうしゃく)に依り方向修正を行い照準線を正しく照準点に向くるものとす
照尺を装するには左手の拇指(おやゆび)と食指(しょくし/ひとさしゆび)とを以って転輪を左方より撮(つま)
之を前後に廻し所望の分画(ぶんかく)を確実に横尺窓下縁(かえん)の縦線に一致せしむ
射撃間照尺及び横尺を改装するには据銃したる儘(まま)之を行うものとす

照準眼鏡の特徴
イ、目標目視明瞭なり
ロ、刻線の距離目盛のみを照準点に指向せば可なるを以って照準容易なり
ハ、飛行機射撃の為照準線環を刻示す
ニ、銃身過度に加熱せば「陽炎」を生じ眼鏡照準を困難ならしむることあり
ホ、四百米以上は刻線右下方に傾きあるを以って動もすれば誤解を生じ易し
  照準要領左の如し(正照準の場合とす)





孔照門の特徴
イ、照準容易にして照準誤差比較的僅少なり
ロ、円の中央に照星頂を一致せしむるには谷型照門に比し困難なる如く感ずるも
  其の誤差は極めて僅少なり
ハ、目標距離三百米に於いて左右に於ける最大照準誤差
  (照門内の端に照星を見出したる場合)は二.五密位にして
  照星の照準誤差を加うるも尚三密位(みりい)を出でず
  実際に於いては斯くの如きは絶無にして殆ど誤差なし

「照準眼鏡・孔照門の特徴」は『歩兵教練ノ参考(各個教練) 第一巻』(1942)による


第三十四 十一年式軽機関銃の照準並びに照尺の装法は小銃に就き示せる所に準ずるものとす
但し照準は通常左眼を閉ずることなく行うものとす

⇒十一年式軽機関銃は谷型照門。照準の際は両目を開けた状態で行う。
 九六式軽機関銃は孔照門。照準は左目を閉じて行う。

※「密位
⇒射教範第一部
 第九十五 角の単位は通常密位(みりい)を用う
 一密位は円周の六千四百分の一の円弧に対する中心角の大きさとす
 円弧は半径の約千分の一の長さに等し
 百密位を以って一分画とす
 射角に在りては一度の十六分の一を単位としたるものあり
 一度の十六分の一の大きさは概ね一密位に相当す
 密位と度の関係附表第一の如し


6400分の1の角度が1密位。
およそ1000m先の地点に1mの幅の物体を置いたとき、その物体の幅は1密位に見える。
100密位で1分画。但し砲兵では1密位=1分画
また、16分の1度は主に砲兵で使用されるが、砲兵でも16分の1度を使用するのは、四年式十五榴や十四年式十加など限定的。基本的には1密位=1分画。

撃発

第三十六 引鉄を圧するには食指の運動を臂(ひじ)に波及せしめざる為右手を以って握把(銃把)を確実に握り食指の第一節を根に近く

或は第二節を引鉄に掛け等斉なる力を加えて之を圧し遂に撃発し得るに至らしむ
而して連続発射中食指を緩めざること及び撃発の後敏速に食指を伸ばすことに熟せしむること緊要なり








第三十七 撃発の要領は照準を始むると同時に呼吸を止め正しく照準し得たるとき撃発し得る如く引鉄を圧するものとす
而して練習を重ぬるに従い照準の安定を害せずして而も迅速に撃発し得るに至らしむるを要す
連続発射間に於ける照準線と照準点との関係を注視し
其の状態を確認して報告 此の報告を予言と言う せしむるは極めて必要にして
特に連続発射間照準線を保持する要領を会得せしむる為価値大なるものとす

射撃ノ方法

第三十八 射法の教育は点射に重点を置き其の他の射法は其の概要を会得せしむるを以って足れりとす
点射の教育に方りては先ず点射を反復する要領を十分会得せしめ次で点射を移動する要領を教育するを要す

第三十九 点射を反復するには約三発或は約五発づつ発射する如く食指を屈伸し更に照準して同一動作を反復するものとす

第四十 点射を移動するには通常目標の某点より逐次一回若くは数回の点射を為しつつ迅速に之を目標の他部に及ぼすものとす
之が為体全体の移動或は両肘の移動等に依り迅速確実に照準線を移動するものとす

第四十一 連続点射を行うには引鉄を圧したる儘(まま)連続発射するものとす
薙射(ちしゃ)を行うには引鉄を圧したる儘照準線を概ね目標に沿い平等に移動するものとす

第四十二 側方に移動する目標を射撃するには照準線を目標の移動に追随せしめつつ点射を反復するものとす
而して其の照準点(方向修正量)は第一表に示すものに準ず

第四十三 飛行機を射撃するには照準線を目標の移動に追随せしめつつ点射を反復するものにして
照門、照星を用うる場合に於いては小銃の要領に準じて照準を行い
眼鏡照準具を用うる場合に於いては第十七図に示す要領に依るものとす
撃発の要領は小銃に準ずるも飛行機照準線を通過する前後に於いて発射するものとす





射撃法

点射…歩兵操典「第四十 射撃は通常点射(三乃至五発)を用い時として連続点射を用う」
⇒点射は3ないし5発と操典に記述されている。その示す範囲は3、4、5発と見ることができるが、訓練では3発と5発の2種類を行う。
状況や場合によっては変化することもあるが、目標が近距離の場合は3発、遠距離の場合は5発で点射を行う。

点射の反復
⇒同じ目標に対して点射を何度も行う。

点射の移動
⇒一回、あるいは数回(大体2~3回)点射を行ったあと、迅速に他の目標を照準し、射撃(点射)を行う。
射手は、例えば「右ヨリ撃テ」の号令を受けた際、必ず最右端の目標から射撃しなければならないということはない。明瞭で射撃し易い目標や射弾の観測が容易な目標を優先して射撃しても良い。

連続点射
⇒引鉄を引き続ける。連射。
30発の射撃時間は3~4秒。
薙射は連続点射を行いながら左右に銃を移動させていわゆる”薙ぎ払う”ように行う射撃。
ちなみに『小銃、軽機関銃、拳銃射撃教範』(1929)では、

第百一  薙射の速度は距離の遠近、目標の状態に依るも脚桿及び両肘の位置を変ずることなくして照準線を移動し得る正面内に十五発を発射するを以て標準とす

とある。


参考書籍として諸兵射撃教範の他、
『歩兵教練ノ参考(各個教練) 第一巻』(1942)
『初年兵教育』(1943)
を参照。説明等はこの両書に記述されたものを基礎にした。

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