注意
上級指揮官又は下級指揮官なる兵語は、指揮官の上下を比較する場合に用いられる。即ち分隊長より云えば小隊長も師団長も上級指揮官であり、師団長から云えば旅団長以下皆下級指揮官に当る。
右(※「突撃について(四)」のこと)の各条項を通読して見ればすぐ分かる様に、突撃は大体に於いて第一線にある大隊長以下の各級指揮官が好機に乗じて自ら之を発起する場合と、上級指揮官の命令に依て実施する場合とがある。而して多くの場合に於いては前者が採用せられるのであって、後者は寧(むし)ろ特例である。
第一線にある大隊長以下の各級指揮官が、自ら突撃を発起する場合に於いては、上は大隊長より、下は分隊長に至るまで常に積極的に好機の発見に勉め、之を発見した者は分、小、中、大隊長は誰れ彼れを論ぜず進んで突撃を断行せねばならぬ。
歩兵操典草案採用時代に於いては、最初の突撃は大隊長の部署に依り実施するのを本則とし、中隊長以下は独断(独断は常道ではない)を以って之を行うを得ることになって居たのである。之が為演習に於いて中隊以下の部隊殊に分、小隊等になると突撃準備や実施に溌溂たる意気を欠き、突撃は大隊長の責任だと云う様な考えから、敵前に於いて呆然として居る様な弊害が可成り多かった。
加え之彼我共に疎開戦闘の方式を採用すると、突撃の好機は特に局所毎に発生するのが常であり、又特別の場合の外は突撃は何も全隊同時に之を開始するの必要はないのである。
此等のことから突撃発起は前述歩兵操典の様に改正された訳である。けれ共右(※上記)の如く云うたからとて演習で往々見る様に分隊長や小隊長が碌に突撃準備もせず且つ好機でもないのに先を争い出鱈目な攻撃をするが如きは慎まねばならぬ。最初の突撃に於いて大隊長が各部隊を適当に部署し、相互協同連繋せしめねばならぬことは、従来と変わりはないのであるから、中隊長以下の各指揮官は独り敵情ばかりでなく友軍の状況をもよく観察して、好機たるを判断した上で之を断行すべきである。
次には大隊長以上の上級指揮官が突撃を命令する場合のことであるが、之は突撃命令の動機により次の二種類に区分することが出来る。
一、地形、全般の状況、砲兵の援助射撃等の関係上、突撃発起を前線部隊に一任することなく、上級の指揮官が之を命ずるを有利とする場合
二、突撃の発起は前線の部隊に一任してはあるが、状況の変化に伴い急速に突撃実施を必要とするか、或いは前線部隊の突撃を督励する目的で突撃を命ずる場合
一の場合に於いては突撃発起は前以って命令により指示される。故に前線の各級指揮官は好機を発見しても自ら勝手突撃を実施してはならない。
二の場合は勿論前以って突撃発起の命令を下されるが如きことなく、全く臨時に命ぜられるものである
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