2015年2月1日日曜日

原則の説明 突撃に就て(三)

1、突撃準備を為すべき時期

 突撃準備を為すべき時期に就いては、先に歩兵操典草案の記述が明瞭でなかった為、突撃準備は動(やや)もすれば、敵に近迫後始めて実施すべきものかの様に誤解され勝ちであった。即ち各隊の演習等を見ても敵前二百米位に近迫してから、此所に暫く停止し、始めて何だ彼だと一度に突撃の初準備を行い、然る後突撃を開始するのを状態とした様に思われる。演習で弾丸が飛んで来ないからよい様なものの、敵前二百米位の処と云えば実戦に於いては敵歩兵火の最も熾烈な所である。故に攻者がかくの如き位置の永らく停止するが如きは、徒に損害を大ならしむるばかりで何等の益もない。
 
 突撃の諸準備は須(すべから)く攻撃前進間逐次之を整えて行くべきもので、予想する突撃発起の線附近に到着するまでには既に之を完了して居る様にせねばならない。

 歩兵操典には右(※上記)の趣旨を強調せられて居る。それは前掲各部隊の突撃準備の冒頭又は終末附近に「敵ニ近接スルニ従ヒ」或いは「逐次」等の句が何れの条にも使用されてあるのを見れば明瞭に分かることと思う。文字の右側に◯印を附しておいたのが即ちそれである。
(◯印を付けることはできないので太字で強調した)

2、突撃準備事項(歩兵)

 次には突撃準備としては如何なる事柄を為すべきものであるかを研究して見よう。
 突撃準備とは之を分かり易く云うて見れば、我が突撃を妨害する一切のものを排除若しくは制圧して、突撃実施を容易にし更に進んで有利に之を実施せんが為の諸動作を云うので、尚此際第一回の突撃に引き続いて起こるべき、陣地内部の戦闘準備をも為すのである。
 然らば我が突撃を妨害するものにはどんなものがあるかと云うと、第一は当面の敵が我に対する射撃であり、第二は敵側防機関よりの射撃であり、第三は障害物である。以上のものは何れも我が突撃を妨害することが頗る大であるから、之を排除若しくは制圧しなければ突撃の成功は真に覚束(おぼつか)ない。

 又突撃を有利に実施する為には、十分敵情を明にし、よく其の弱点を看破し、此の弱点に乗じて突撃を実施し、以って其の成功を確実にすることが必要である。敵の弱点に乗じて突撃を実施することは、部隊の最小単位たる分隊には出来ないことであるが()、苟(いやしく)も小隊以上の部隊即ち幾つかの単位部隊が集まって出来て居り、突撃の為適宜の部署を為し得る部隊にあっては常に肝要である。
 話は余談になるが、従来多くの突撃の演習を見ると此様な考え、此様な部署の下に実施して居ることは殆ど稀で、唯何と云うことはない無鉄砲の突撃を実施して居る様に思われる。此如き訓練が果たして実戦の場合に役に立つであろうか?
(疎開戦闘方式は小隊規模で戦闘を行うため。「突撃について(一)」に画像として挿入した表も参照のこと)

 次には突撃準備としての敵情捜索のことに就いて一言しよう。敵に近接してから敵情を捜索するなどと云うと、諸君は不可思議に思われるかも知れない。然し之は甚だ大切なことで前表各部隊の突撃準備中、各隊長の悉(ことごと)くに之を要求せられて居る事柄である。
 諸君の実施する演習の多くは、土地は熟知であり、敵は概して明瞭に現されて居るから、敵に近接してから敵情が不明だなどと云うことは一寸想像が出来ないかも知れない。けれ共実践に於いては、土地は未知であり、敵は見えるのが寧ろ例外である。
 従って攻撃開始前に於ける捜索では敵情は極めて大要しか分からない。細かい敵情は敵に近接してからでなければ明にならないのが常態である。否敵に近接してからでも中々分かりにくいのである。

 而も此細かい敵情を知ることが、各級指揮官の行う突撃準備の大本になる。而して局部毎の細かい敵情は、敵に近く位置する者程よく分かるのであるから、各指揮官は絶えず敵情を捜索し之によって自己の突撃を準備すると共に、更に之を上級の指揮官に報告し以って上級の指揮官の行う突撃準備を容易ならしめねばならぬ。

 以上に述べた様な突撃準備の根本的考えを以って、前掲突撃準備の各条を読まれたならよくお分かりになることと思う。即ち突撃準備事項は分小中大隊等に依て多少異なる点もあるが、其の多くは各部隊に共通的のものであることにも気が付くであろう。

 此各部隊共通的の準備事項を綜合的に考察するときは、各部隊の突撃準備なるものが如何なるものであるかと云うことがよく分かり、尚複雑なる突撃準備事項を整理記憶するのに便利である。左表(下画像)は此目的で考案して見たのである。

 前掲戦闘綱要記述の突撃準備事項と対照して見られたならば、突撃準備は如何なるものであるかをよく了解し得ることと思う。



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