2015年2月1日日曜日

原則の説明 突撃に就て(一)


本投稿は、旧軍の『疎開戦闘方式』における「突撃」に関する説明である。

疎開戦闘方式の突撃と戦闘群戦法の突撃は似通った点等は多いが、やはり若干違ったものとなっている。そのため、この2つの戦闘方式における突撃を、一種の「突撃」としてまとめてしまうのは適当でないように思われる。
疎開戦闘は、軍隊の戦闘が中隊規模から分隊規模の戦闘へと移行する際の過渡期の戦闘方式である。だが、過渡期の戦法とは言え別個に見ても相当な深みがある戦法でもある。

そのような感じで、今回は疎開戦闘方式の突撃のみを扱う訳だが、この突撃についての説明、突撃のみとは言えそれなりの量がある。いくつかに分けて掲載することになるので、諦めずに最後まで読んでいただきたい。

出典書籍は稻村豊二郎 著『初級戦術講座』(琢磨社,1931)

原則の説明

突撃に就て


 攻撃戦闘の各時期に対する軽重の観念は、欧州大戦前即ち疎開戦法採用前と、戦後即ち同戦法採用後の今日とでは、可成り変化した様に思われる。疎開戦法採用前に於いては、攻撃の本舞台は攻者が攻撃準備の位置から突撃発起線に至るまでの攻撃前進であって、突撃は最終の一幕たるに過ぎなかった。
 然るに同戦法採用後に於いては、之が全く正反対になって、今日では攻者が攻撃準備の位置から突撃発起線に至るまでの攻撃前進は、ほんの攻撃の序幕で其の本舞台は、寧ろ最初の突撃並び其の以後の動作に変わったのである。
 なぜかように変わったかと云うと疎開戦法採用前に於いては、防者の陣地は多くは一線式の配備であったので、突撃は唯一線に於て実施しさえすれば、勝敗は定まった。之が為攻者は、攻撃準備位置からの前進間、十分に歩砲の火力を発揚し、之に依って防者を半殺しにしてしまい、突撃は唯此の半死的状態の防者に最後の止めを刺すものであるに過ぎなかった。
 従って当時に於いては突撃発起線に至るまでの攻撃前進が、攻撃の主要部分となり之が頗る重要視されたのも当然である。

 然るに今日は如何。防者の陣地は縦深横広に疎開せられ、為に攻者は出来得る限り優勢な歩、砲火を発揚しても、防者の全般を半死的状態に陥れることは頗(すこぶ)る困難である。加え之第一回の突撃が奏功した後に於いても、攻者は更に多難な陣地内部の戦闘を経過しなければ勝敗の決を与える訳に行かない。
 そこで、今日の攻撃戦闘に於いては攻撃準備位置から突撃発起線に至るまでの攻撃前進動作よりも、最初の突撃及び陣地内部の戦闘の方が一層重要であり、突撃発起線に至るまでの攻撃前進は、、以前の様に突撃と対等的な一攻撃手段であるとの考えから大分下落して、該攻撃前進は単に突撃並び陣地内部の戦闘を為さんが為の一手段に過ぎぬと云う様な考えに変わって来た。

 又欧州大戦間の陣地戦に於いては、彼我両軍数百米の近距離に於て永く相対峙し、一方軍の攻撃開始に方(あた)っては最初から突撃を実施した例が多く、あれやこれやで戦後に於いては最初の突撃開始が即ち攻撃開始であると云う様な極端なことまでも云われたことさえもあった。

 何れにせよ今日に於いては、攻撃戦闘の主体は最初の突撃及び陣地内部の戦闘に移って居ることは事実である。故に軍隊に於ける攻撃戦闘の演習なども之に伴い、最初の突撃及び陣地内部の戦闘の訓練には以前よりも十分に力を尽くさねばならぬことと思う。

 今日の軍隊に於いて突撃並び敵陣地内部の戦闘の研究熟練を必要とすること右の如くである。而して突撃準備の可否は直に突撃の成否を左右するものであるから、之に関する研究演練も亦極めて緊要な事柄である。

 突撃準備に関する事項は、歩兵操典及び戦闘綱要左記(※下記)の条に明示せられて居る。

 分 隊  歩兵操典 第二〇四 及び 二三一
 小 隊  同      第二七三
 中 隊  同      第三一四
 大 隊  同      第七三五
 諸兵種  戦闘綱要 第一〇四、一三一、一三二、一三三、一三四。

 而して此等の各条を、彼此対照しつつ研究するときは、突撃準備なるものが如何なるものであるかを真に了解し、且つ印象を強めて記憶を確実にするの利益がある。故に以下此の要領に依り突撃準備を研究して見よう。

 研究に先だち諸君が歩兵操典及び戦闘綱要のあちらこちらを繙(ひもと)いて居たのでは彼此対照に困難である許りでなく、面倒で且つ時間を浪費することでもあろうから、次に之を掲げることにする。



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