二、突撃実施
1、突撃発起線に就いて
突撃発起線とは突撃を開始すべき線のことである。
突撃実施に方(あた)り突撃部隊に砲兵が協力する場合には、砲兵は突撃点に向かい射撃を集中するから、従来は突撃部隊は友軍砲兵より受くる危害を避ける為に、平坦地に於いては其の突撃点から二百米位離れた所に停止し、此所で突撃準備を完了して友軍砲兵が、突撃点から射撃を他に移動した瞬間を利用し、換言すれば突撃部隊は突撃点に対する我が砲兵の最終の砲弾に次いで突撃前進を起こし、敵が我が砲撃によって大損害を被り、其の残りの者等は掩蔽部等へ逃げ込んで未だ出て来ない中に敵陣地に突入するのを適当と見られて居た様である。
之が為演習に於いては、突撃部隊は二百米位の間を、早駈に近い速度で一挙に走り其の敵陣地に突撃する頃には、気息奄々(きそくえんえん) として将に倒れんとするに至り、到底格闘並び其の後の戦闘力などは無い様になることが屡々であった。
欧州大戦間最も多くの砲兵が使われた時期に於いては、実際砲兵は突撃点を徹底的に破壊し、残存兵極めて少なく殆ど突撃点に敵影なしと云う有様であった。加え之突撃実施に方っては、多くの砲兵が尚密接に突撃部隊に協力し突撃部隊の前方に移動弾幕射撃、梳櫛射撃等を実施して残存の敵を制圧しつつ突撃部隊を誘導したものであるから、突撃部隊は駈歩などをせず、一分間百米位の速度でのそのそと進んだものである。
右の様な突撃は我が軍では出来ない相談で、砲兵が協力してくれる場合でも、突撃点附近の敵を十分に圧倒し得るが如きことは望まれない。故に此場合に於いても尚歩兵は自ら突撃を準備し且つ実施するの覚悟がなければならぬ。従って友軍砲兵の射撃間突撃点から二百米位離れた処に一時停止した場合でも、砲兵の射撃移動と共に自らの火器を以って敵を制圧しつつ前進し、敵に近迫してから後突撃を開始すべきものである。
2、突撃発起の主任者に就いて
突撃の発起に就いて歩兵操典及び戦闘綱要の相当条項を列記して見れば次の通りである。
分隊長
分隊長は自ら好機を発見するか或は突撃の命令あるときは直に突撃の号令を下し率先先頭に立ち猛烈果敢に敵陣に突入すべし
分隊長は自ら好機を発見するか或は突撃の命令あるときは直に突撃の号令を下し率先先頭に立ち猛烈果敢に敵陣に突入すべし
(歩兵操典第二百五)
小隊長
小隊愈々敵に近迫せば小隊長は好機に乗じ自ら突撃を決行すべし
中隊長より突撃発起に関し指示せられたる場合に於いては小隊長は速に突撃準備を完了し之を中隊長に報告し突撃の命あるや直に突撃を実施すべし
(歩兵操典第二百七十四)
中隊長
中隊愈々敵に近迫せば中隊長は好機に乗じ自ら突撃を決行すべし
大隊長より突撃発起に関し指示せられたる場合に於いては中隊長は速に突撃準備を完了し之を大隊長に報告し突撃の命あるや直に突撃を実施すべし
(歩兵操典第三百十五)
大隊長
突撃の機熟するや大隊長は直に之に乗じ大隊の全力を揮い猛烈果敢に突撃を実施すべし
(歩兵操典第七百三十八)
連隊長
連隊長は戦闘の進捗に伴い第一線に近く進出して各大隊の戦闘を指導し以って突撃を誘起し之を命令すべし
(歩兵操典第八百二)
旅団の戦闘は本篇に示すの外戦闘綱要に掲ぐる戦闘の原則に基き旅団長の運用の力に待つべきもの多しとす
(歩兵操典第八百二十)
各級指揮官
突撃の機迫るや前線に在る歩兵の指揮官は適時歩、砲兵射撃の効果其他敵に対し獲得し得べき利益を看破し機を失せず突撃を決行するを要す此際砲兵は適宜射程を延伸して敵の増援を遮断し突撃の奏功を容易ならしむること肝要なり
(戦闘綱要第百六)
突撃の諸準備著々進捗するや各部隊は益々其火力を熾盛ならしめ敵を十分圧倒し此間各級指揮官は好機を看破して突撃を敢行するを要す
(戦闘綱要第百三十五)
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