予備隊の用途に就て
第三図に於けるB、Cなる力の本は、云うまでもなく予備隊である。以下之に関連して予備隊の任務に就き少しく説明しよう。
陣地内部の戦闘に於ける各部隊の予備隊は、次の様な諸任務を負担すべきものである。
一、第一線部隊を補充して之に不断の推進力を与う
二、第一線部隊の側面を掩護し第一線部隊をして其の側方に顧慮することなく一意命ぜられたる前進方向に突進せしむ
三、第一線部隊の穿ちたる突破孔を拡大す
第一線部隊は、敵陣地内の前進中絶えず損傷を生じ之を放って置けば、所望の所に到達しない中に其の攻撃が頓挫して了うから、かくの如きことがない様に適時後方から兵力を補充し、常に溌溂たる元気を以って突進を継続させることが必要である。
而して小隊の援隊は主として此目的の為に使用せらる。
第二の任務に就いては、既に説明した所であるから茲に再び繰り返さない。
第三の任務は前記第三図にあるB及びCの力に相当する訳である。
茲(ここ)で序(つい)でに戦果拡張と云う兵語を一寸説明して置くが「戦果拡張とは攻撃に於いて第一線部隊の収め得たる戦闘の成果を拡大するを謂う」
前の第二図に於いて第一線部隊が最初の1の如く敵陣地に孔を開けたときに之に各部隊の予備隊を加えて此の孔を2、3、4の如く拡げて行くことが即ち戦果拡張である。
陣地内部の戦闘間、戦果拡張の為予備隊を投入するには、左図に示してあるが如く、第一線の一部成功した方面にするのがよいので、敵の抵抗頑強にして戦闘の進捗せざる部分に増加使用するのは適当でない。
換言すれば縦深ある敵陣地を突破するには絶えず敵陣地の薄弱部を索(もと)め、此薄弱部に従い戦闘を進捗せしめて行くのがよいのである。而して敵陣地の全縦深を突破し終わるまでは予備隊は常に之を使用し尽くしてしまった場合でも状況之を許すに至ったならば速に之を作って置くことが必要である。
陣地内部の戦闘に就いては尚お話したいことは沢山あるが余り長くなるから之で打ち切ることにする。
以上の説明に依て諸君が若し多少でも歩兵操典及び戦闘綱要の下記各条を理解せられて陣地内部に於ける戦闘に就いての確信を得ることが出来るとせば誠に幸いである。
陣地内部の戦闘に関する歩兵操典及び戦闘綱要の相当条項左の如し。
分 隊 歩兵操典 第二百五 及び 第二百三十二
小 隊 同 第三百七十五
中 隊 同 第三百十六
大 隊 同 第七百三十九
連 隊 同 第八百二
一般的 戦闘綱要 第九十三
以上、稻村豊二郎 著『初級戦術講座』(琢磨社,1931) 「原則の説明」,pp.145-169
基本的に旧字体は新字体に、一部の漢字については送り仮名等を追加した。
また、特に注記が必要な部分は(※フォントサイズ小)で補足した。
漢字のルビは出典書籍に振られていた字のみを(フォントサイズ小)で記載した。
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