第二款 防御
第百三十六 分隊長は状況の許す限り綿密に地形を偵察し射撃区域の地形及び隣接部隊との関係を考慮し火器特に軽機関銃又は擲弾筒の威力を最も有効に発揚し得る如く配置を定む
第百三十七 分隊の配置を定むるには射撃区域特に至近距離に最も有効に火力を発揚すると共に敵の攻撃を受くるの虞ある他の方向に対しても火力を指向し且つ損害を減少し得る如く地形に適合し疎開せしむ此の際通常分隊を数群に分かち之を梯次に配置し又屡々(しばしば)軽機関銃を分離して配置す
狙撃手、監視兵等は分隊の陣地と適宜離隔せしむるを利とすることあり
射撃区域に代え主なる射撃方向を示されたるときは分隊長は其の占領区域と射撃方向とを基礎とし自ら射撃区域を定む
第百三十八 軽機関銃、擲弾筒の為には各種の状況に応じ十分なる火力を発揚し且つ損害を避けんが為数箇の射撃位置を設け又之に近く弾薬集積等の為掩護の設備を設く
⇒防御時の分隊配備
配備は状況等によって変化するが、一例として『歩兵教練ノ参考』に示された一般・擲弾分隊の配置の図を掲載する。
一般分隊 擲弾分隊
防御の配置は、『歩兵操典 第136』に示されているように、一般分隊は軽機関銃、擲弾分隊は擲弾筒の効力を最大限発揮できるように配置することとされている。
攻撃の時、一般分隊の軽機関銃は分隊の射撃開始から陣内戦に到るまで、終始射撃を行う分隊の主力火力である。それに対して小銃は必要に応じて火戦に参加するか、貯蔵されて白兵戦の際に使用されるという、言わば軽機関銃の補助及び白兵戦用といった扱いであったことはご承知のことと思うが、防御にあってもこの関係はさほど変化せず、軽機関銃を戦闘の中心に据えるという趣旨に一貫している。
第百三十九 分隊長は豫め友軍の状況、分隊の射撃区域、所命の火力急襲地点 中隊長以上の計画に依り火力を急襲的に集中すべき地点を謂う 前地の地形等を示して兵に了解せしめ射撃指揮を容易にし又状況の許す限り工事、偽装を十分ならしむ一般分隊 擲弾分隊
防御の配置は、『歩兵操典 第136』に示されているように、一般分隊は軽機関銃、擲弾分隊は擲弾筒の効力を最大限発揮できるように配置することとされている。
攻撃の時、一般分隊の軽機関銃は分隊の射撃開始から陣内戦に到るまで、終始射撃を行う分隊の主力火力である。それに対して小銃は必要に応じて火戦に参加するか、貯蔵されて白兵戦の際に使用されるという、言わば軽機関銃の補助及び白兵戦用といった扱いであったことはご承知のことと思うが、防御にあってもこの関係はさほど変化せず、軽機関銃を戦闘の中心に据えるという趣旨に一貫している。
⇒火力急襲
「火力急襲地点」なる単語が『昭和15年 歩兵操典』で登場し、註解も加えられている。
この「火力急襲地点」は、操典の記述の通り「火力を急襲的に集中すべき地点」であり、その計画も中隊長以上が行うこととされている。
また、偽装についても十分に行う旨の記述があるが、これは支那事変の際、偽装した中国軍の陣地への攻撃が非常に困難であったという教訓から、より一層重視するようになったようである。
この「火力急襲地点」は、操典の記述の通り「火力を急襲的に集中すべき地点」であり、その計画も中隊長以上が行うこととされている。
また、偽装についても十分に行う旨の記述があるが、これは支那事変の際、偽装した中国軍の陣地への攻撃が非常に困難であったという教訓から、より一層重視するようになったようである。
第百四十 擲弾分隊長は射撃準備を命ぜられたる地点に対し各筒の射向、距離分画、射撃の要領等を示し豫め所要の準備を整えしむ
⇒分隊の射撃区域その他
一般分隊射撃図 擲弾分隊射撃図
『歩兵教練ノ参考』に射撃図が掲載されている。(この射撃図は、事前に作成しておくと便利。といったもの。詳細は歩兵教練ノ参考 第二巻、p.127)
この図を見ると、火網の前端は陣地から概ね500~600mとなっている。
これは分隊の攻撃の時と同様、射撃は近距離(600m以内)から行うこととなっているためだろう。
また、擲弾筒は最大射程が火網の前端となるだろうと思われるが、現実的に考えると最大射程での射撃は、命中率や射撃修正の問題からするとあまり歓迎できることではないと思われる。
図中の火網の前端が600mではなく、約500m地点であるのは、おそらくそういった理由からではないかと思う。(あくまで出典等の無い個人的な考えではあるが)
『歩兵教練ノ参考』に射撃図が掲載されている。(この射撃図は、事前に作成しておくと便利。といったもの。詳細は歩兵教練ノ参考 第二巻、p.127)
この図を見ると、火網の前端は陣地から概ね500~600mとなっている。
これは分隊の攻撃の時と同様、射撃は近距離(600m以内)から行うこととなっているためだろう。
また、擲弾筒は最大射程が火網の前端となるだろうと思われるが、現実的に考えると最大射程での射撃は、命中率や射撃修正の問題からするとあまり歓迎できることではないと思われる。
図中の火網の前端が600mではなく、約500m地点であるのは、おそらくそういった理由からではないかと思う。(あくまで出典等の無い個人的な考えではあるが)
第百四十一 射撃を開始せざる間分隊長は極力兵を掩蔽せしむ然れども敵の近接に伴い機を失せず射撃位置に就き得るの準備並びに所要の小銃手をして随時有利なる目標を狙撃せしむるの準備に遺憾なきを要す
分隊長は自ら敵情を監視すると共に所要の兵をして敵情監視に任ぜしむ
第百四十二 射撃は小隊長の命令に依り開始し射撃区域及び所命の地点に対して行う爾余の地域に在りても敵兵分隊に近迫するときは之を射撃す
分隊長は射撃に際し散兵をして巧みに隠顕し或いは射撃位置を変え或いは敵を欺騙せしむる等敵に目標を捕捉せしめざるの著意を必要とす
敵兵近迫し来るも分隊長以下我が白兵の威力を信じ自若として益々火力を発揚し要すれば手榴弾を投じ之を陣地前に破摧すべし敵兵遂に突入し来たれば敢然白兵を揮(ふる)いて撃滅すべし縦い我が陣地に侵入するも最後の一兵に至る迄奮闘し飽く迄其の地を固守すべし
⇒射撃開始前後の動作
敵が火網に進入するまでは、兵を敵眼から隠すことが基本である。敵の砲爆撃等の被害を避けるためにも、陣地の掩体や掩蔽部に避難する等を行う。敵の近づくのに従って兵を射撃位置に就かせる準備を行う。敵の指揮官等を射撃できるのであればその狙撃を行う。
小隊長の命令によって射撃区域と所命の地点(一般分隊は所命の火力急襲地点、擲弾分隊は射撃準備を命ぜられたる地点)に対して射撃を開始し、 他の地域(隣接分隊との間に出来る射撃区域外の部分や側背地域)も敵兵が近迫した場合はこれを射撃する。
この際、分隊長は兵が敵に捕捉されないように隠顕(射撃後すぐに隠れる等)したり、射撃位置を変換したり、欺騙的動作(遮障:右画像参照、偽銃、偽兵の設置など)を行うように兵に徹底させる等注意する。
敵が至近距離まで来た場合、戦闘において重要な精神的要素、白兵信頼の精神(おそらく白兵(銃剣)だけでも俺は戦闘を戦い抜けるぞ。といった心持ちのこと)を持ち、かつ、近距離であればあるほど射撃効果は高いので持てる火力を発揚し、必要であれば手榴弾を投擲して敵を陣地前で破摧する。
健闘むなしく敵が陣地内に突入して来たときは、銃剣でもって白兵戦を行い敵を撃滅する。この際、最後の一兵となっても奮闘し自分の持ち場を死守する。
小隊長の命令によって射撃区域と所命の地点(一般分隊は所命の火力急襲地点、擲弾分隊は射撃準備を命ぜられたる地点)に対して射撃を開始し、 他の地域(隣接分隊との間に出来る射撃区域外の部分や側背地域)も敵兵が近迫した場合はこれを射撃する。
この際、分隊長は兵が敵に捕捉されないように隠顕(射撃後すぐに隠れる等)したり、射撃位置を変換したり、欺騙的動作(遮障:右画像参照、偽銃、偽兵の設置など)を行うように兵に徹底させる等注意する。
敵が至近距離まで来た場合、戦闘において重要な精神的要素、白兵信頼の精神(おそらく白兵(銃剣)だけでも俺は戦闘を戦い抜けるぞ。といった心持ちのこと)を持ち、かつ、近距離であればあるほど射撃効果は高いので持てる火力を発揚し、必要であれば手榴弾を投擲して敵を陣地前で破摧する。
健闘むなしく敵が陣地内に突入して来たときは、銃剣でもって白兵戦を行い敵を撃滅する。この際、最後の一兵となっても奮闘し自分の持ち場を死守する。
第百四十三 戦車を伴う敵の攻撃に対しては分隊長は通常戦車に跟随する歩兵を射撃せしむ然れども戦車至近距離に近迫し来たるときは兵を指命して覘望孔等を射撃せしむることあり
⇒対戦車戦闘
日本軍の対戦車戦闘は、基本的に連隊の速射砲と中隊長(小隊長)が編成する肉薄攻撃班が担当する。そのため、肉薄攻撃班(組)用に兵が抽出されたり、特別な事情により分隊でも肉薄攻撃を行わなければならないような場合を除けば、分隊として行う対戦車行動は多くない。
操典に記述されている動作も、戦車と行動を共にしている歩兵を射撃することが基本となっている。
対戦車用の資材(爆薬、地雷等)は中隊等が所有している。これが分隊に配付されなければ対戦車戦闘を行うにしても、分隊としては小銃や軽機関銃で戦わざるをえない。このため、操典では分隊の至近距離に戦車が来た場合に行う動作としては、小銃や軽機関銃でほぼ唯一効果が期待できる「覘望孔等を射撃」となっている。
操典に記述されている動作も、戦車と行動を共にしている歩兵を射撃することが基本となっている。
対戦車用の資材(爆薬、地雷等)は中隊等が所有している。これが分隊に配付されなければ対戦車戦闘を行うにしても、分隊としては小銃や軽機関銃で戦わざるをえない。このため、操典では分隊の至近距離に戦車が来た場合に行う動作としては、小銃や軽機関銃でほぼ唯一効果が期待できる「覘望孔等を射撃」となっている。
説明等は
『歩兵教練ノ参考(教練ノ計画実施上ノ注意 中隊教練 分隊) 第二巻』,1942
『歩兵操典詳説 第1巻』,1942
をもとに作成。
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