このような地形での戦闘ばかりで市街戦の印象が薄い。
勿論、全く無かった訳ではないので、戦闘綱要や作戦要務令には市街戦についての記述がある。
『戦闘綱要』及び『作戦要務令 第二部』の第八篇 特殊ノ地形ニ於ケル戦闘の第三章 森林及住民地ノ戦闘がその箇所であるが、文量が非常に多くなるのでここでは扱わない。
今回紹介するのは、昭和7年4月の偕行社記事第691号附録に掲載された『済南事変に於ける市街戦より得たる教訓』である。量的には多くないが、一資料としては非常に参考になるものだと思う。
第一 要旨
一、市街地の戦闘に於て各部隊は指揮官の手裏を脱し易し故に指揮官は部下を掌握するに努むると共に各部隊は指揮官の掌握下に入ることを努め仮令指揮官の手裏を脱することあるも独断専行以て任務を積極的に遂行すべし
二、電話は屡々故障を生ず故に煙火、単旗、鳩等の副通信を必要とす
三、市街地に於て敵と衝突したる時は路上に兵力を使用することなく速に附近の適当なる家屋又は圍壁を求め且成るべく屋上の高所を占領するを可とす
四、市街地の戦闘に於ては各家屋の窓硝子は之を開放し置くか除去するを適当とす是砲弾の為破壊せらるる時は大なる音響と共に飛散し志気に影響を及すを以てなり
市街地に於ては敵弾は反跳して一定の方向より来るものにあらず故に陣地の設備に際しては之を顧慮するを要す
五、市街戦に於ては一分隊以上の部隊には十字鍬其他破壊器具を携帯せしめ尚梯子、縄、鎌等の準備必要なり
何となれば交通連絡の為或は損害を避けて前進し又は敵の側背に迫る等の為圍壁、家屋を破壊するを要する場合多ければなり
六、市街戦に於ては個人の服装を左の如く改装せしむるを要す
軍帽は鉄兜とし軍靴は厚底足袋若は支那靴とし背嚢を除く
(省略)
第三 市街内の攻撃
一、市街の内部に拠る敵を攻撃するには軍隊を攻撃隊と掃蕩隊とに区分するを可とす
攻撃隊には成し得れば一部の砲兵を配属し独立の性能を附与するを要す
二、家屋に防御工事を施せる敵を攻撃するには防者の拠れる家屋に近接する高所を利用し火砲、迫撃砲、機関銃等を布置し攻撃歩兵の前進を援助するを可とす
三、道路上を前進するには道路の両側を躍進す此際沿道家屋より狙撃を受けざることに注意し若し不意に高層家屋より射撃せらるる時は沈着して其窓牖に向ひ軽機関銃を以て反撃するを可とす此際は伏臥するは却て不利にして家屋の脚に拠るを可とす
四、敵の占拠せる家屋内に侵入せんとする時は先づ道路両側に所要の兵を配置し其射線を交叉し反対側を射撃及手榴弾を投擲し得る如く準備せしめ且家屋の周圍には敵の逃走を防ぐ為所要の監視兵を附したる後実行するを要す
五、家屋内の各室に侵入せんとする時は直に開扉突入することなく開扉と同時に身を外側に隠蔽し応急の準備を完了したる後突入するを可とす蓋し窮鼠猫を咬むの被害を除くと共に敵の抵抗を断念せしむるの利あり
六、市街地内の攻撃に於ては家屋の脚に接して行動する時は比較的損害を避くることを得るものとす而して道路上の並木、電柱等を利用することは却て敵に好目標を与へ敵弾の集中を受くるものとす
第四 市街内の防御
一、市街地の防禦に於て防禦の主線を市街地の城壁に撰定するや或は城外に撰定し市街地を複廓として利用すべきやは一に情況に依る
二、防禦の主線を城壁上に撰定し陣地を構成する為には成し得れば隅角部又は城門附近に於て外方に複廓陣地を撰定し壁下の側防に任ぜしむるを可とす
三、壁上に於ては突出部を利用し側防の手段を講ずると共に拠点を編成し以て一連配備の害を除去すべし
四、市街地に在りて砲兵は射界を大ならしむる為特に高所に配置するを可とす若し山砲を有する時は之を分割して壁上拠点又は城外の側防陣地内に配置するを有利とすることあり
五、市街地に於ける防禦戦闘の為道路上中央に閉鎖堡様の工事を施すが如きは敵の好目標となり且屋根上より瞰射せられ不利なり寧ろ道路両側に接し家屋、圍壁等を利用して工事をなすを可とす
操典には市街戦に関しての規定はない。
一方、戦闘綱要と作戦要務令には市街戦に関する記述があるが、これらは大部隊の運用を中心に記述したマニュアルであるため、分隊や小隊規模の戦闘に関しては希薄である。
小部隊に主眼を置いたものは典範令以外の書籍資料に掲載されていることが多い。
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