2015年3月19日木曜日

戦闘間兵一般の心得

戦闘間兵一般の心得

第四章 戦闘間兵一般ノ心得

第七十六 兵は軍人の本分を自覚して身命を君国に献げ戦勝獲得の一途に邁進すべし

第七十七 戦闘は行軍及び劇動の後開始せられ且つ数昼夜に亙るを常とす故に兵は黙々として困苦欠乏に堪え烈々たる熱意を以って飽く迄其の責務を遂行すべし

第七十八 戦闘激烈にして死傷続出し或いは紛戦を惹起して命令徹底せざるか又は指揮官を失うも兵は戦友相励まし益々勇奮率先其の任務に邁進すべし若し敵の重囲に陥り又は弾薬を射ち尽くしたるときは自己の銃剣に信頼し自若として事に当たり縦い最後の一人となるも尚毅然として奮戦すべし凡て疑惧後退は敗滅に陥り勇猛果敢なる行動は常に勝利を得べきものなるを銘肝するを要す


第七十九 兵は戦闘中負傷するも自ら応急の処置を施し百方手段を尽くして戦闘を続行すべし縦い戦闘に堪えざるに至るも後退すべからず然れども若し小隊長以上の指揮官より後退を命ぜられたるときは擲弾筒、軽機関銃、眼鏡等部隊装備の兵器、拳銃、弾薬及び資材を戦友に交付し小銃、銃剣、防毒面等は之を携帯して徐ろに退くものとす

第八十 兵は常に自ら進んで指揮官の掌握下に入ることに勉むべし所属部隊を離るるは特に命ぜられたる場合に限るものとす戦闘中命令を受けずして負傷者を介護、後送し或いは任務遂行後の復帰遅緩するが如きは軍人の本分を傷つくるものなり
兵若し所属部隊の所在を失いたるときは直ちに最寄りの部隊に合し速やかに将校に届け出で其の命令に従うべし

第八十一 兵は剛胆にして耐忍に富み勇猛にして士気旺盛ならざるべからず戦場の惨状を誇張し或いは自己の苦痛を訴え又は状況を悲観せるが如き言動は厳に之を慎むべし

第八十二 敵の飛行機、戦車、瓦斯等の急襲に対しても兵は命令又は規定に基き沈著冷静事に当るべし

第八十三 敵は絶えず巧妙なる思想戦を以って我が軍の崩壊を企図すべし而も之が感知は通常困難なり故に兵は一意上官に信頼し只管(ひたすら)其の責務に奮励すべし


最新図解陸軍模範兵教典』では、もう少しわかりやすい文で記述されている。

(一)戦闘は何時でも長い行軍をして、激しく疲れた頃に開始されるものであるから、勇猛沈着、自信とを以って、有らゆる困苦欠乏に打ち克たねばならぬ。

(二)敵の火力が熾んで、味方の死傷が多い時でも、自分の責任を自覚して、従容自若として、事に当らねばならぬ。恐れて逃げたりすると、敗滅を招くもので、勇敢なる前進だけが、勝利を得る手段であることを忘れてはならぬ。

(三)敵陣内の戦闘に於いては、常に混戦状態となるものであるから、上官も部下の兵士も、殆ど別れわかれになって戦うようになる。それであるから、皆独断を以って戦況に適した処置を取らねばならぬ。

(四)防御している時には、死んでも自分の位置を離れない覚悟で守らねばならぬ。敵が近づいて来る程、我が銃の火力は益々効力があることを確信して、泰然として、逆襲に出る時機を窺うのである。若し弾丸を射ち尽くしたり、敵の重囲に陥った場合は、自分の銃剣に信頼して、最後の勝利を求める事に努めるのである。

(五)指揮官が死んだり負傷するのは、戦場ではよくあることで、兵は譬(たと)え指揮官が無くなっても、志気を沮喪させてはならぬ。そんな時にこそ、却って勇気を奮い起こし、自分が率先して模範を示し、他の者を率いるだけの気概で闘わねばならぬ。戦勝を得るか否かは、残っている者の責任であることを忘れてはならない。

(六)戦場で負傷しても、早く手当をして、何とかして戦を続けなければならぬ。何(ど)うしても戦えなくなった時は、初めて指揮官に報告して、小隊長以上の上官から後退を命ぜられたときは、兵器、弾薬等を戦友に渡し、小銃、銃剣、防毒面は携帯し、徐ろに戦線を退くのである。

(七)自分の所属部隊を離れるのは、特に命令があった場合に限る。戦闘中命令なくして負傷者を介護したり後送したり、任務が終わっても所属隊に帰ることが遅れたりすることは軍人の本分を傷つけるものである。

(八)若し何かの過ちで、所属の隊を見失ったら、直ぐにその附近にいる将校に届けて、其の配下となって戦い、一戦闘が終わったら、なるべく早く元の隊に帰らねばならぬ。

(九)兵は剛胆で忍耐に富み、勇猛で士気旺盛でなければならぬ。戦闘に悲惨の状況は附きものである。夫れを大袈裟に話をしたり、自分の苦痛を訴えたり、悲観したりする言動は厳に慎まねばならぬ。

(十)敵の飛行機、戦車、瓦斯等で攻撃された場合でも沈着して事に当たれば決して不覚を取ることが無い。

(十一)近代の戦争は兵器を以ってする外、盛んに思想戦が行われるものであるが、兵は只上官を信頼して、自分の任務に直進すべきである。


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