軽機関銃
第五十六 射撃は軽機関銃射手の為最も重要なる戦闘手段なり故に之に熟達するの外銃の構造機能及び固癖(こへき)を知悉(ちしつ)し且つ故障の予防及び排除に習熟し軽機関銃の特性を遺憾なく発揮するを要す
射手は目標の状態、距離の遠近等に依り自ら射法を選び且つ点射に於ける発数を決定し得ざるべからず
連続点射は瞬間現出する有利なる目標又は至近距離に於ける密集目標等に対し一時之を行う
第五十七 銃を据うるには目標に対し両脚桿(きゃくかん)及び両肘の高低の関係を適当ならしめ又発射に方り銃口前に塵煙(じんえん)の揚がらざる如く考慮す
両脚桿の位置は左右概ね高低なく射撃に際し脚桿の没入せざる所に選び両肘の位置は射撃中変移することなき所に選ぶ
脚桿を低(高)くするには銃を後方に引き右手にて提把を握り左手の拇指にて脚桿頭駐子を圧し脚桿を前(後)方に移し銃を旧に復す
状況に依り後脚を使用して射撃するを利とすることあり
銃を直接地物に托するの止むなきときは「ガス」排出孔を塞がざることに注意し且つ銃口を少なくも約十糎地面より離す
第五十八 銃座に拠る射撃は通常体の前部を内斜面に接し伏射に準じ行う
樹木に遮蔽して射撃するときは装填薬莢の蹴出に支障なきを要す
地形地物の状態に依り小銃に於ける立射、膝射の姿勢を準用することあり
地形地物を利用する射撃(歩操 57)
脚桿を用いる射撃(歩操 57)
軽機関銃は脚桿と両肘の4点で地面に接地して射撃を行う関係上、小銃と比べて射撃に関して制約がある。
斜面で射撃を行う場合、小銃だと敵から見れば頭だけを出した様な状態に見える位置からでも射撃が行える。しかし、軽機関銃の場合は上記の関係から、そのような位置から射撃を行うことはほぼ不可能である。(右図の1)
そのため、軽機関銃は地形に合わせて肘と脚桿の位置関係を調節して銃を据える必要がある。(左図)
または、斜面から身を乗り出すか、地形の改修を行えば射撃が可能となる。(右図)
※『歩兵教練ノ参考(各個教練)第一巻』(1942)では「稜線を乗り出しての射撃」は、やむを得ず一時的に行うものとなっている。(下図)
目標の位置と射撃位置に高低差がある場合、仮に目標の方が高い位置にあるのならば、肘の位置が低く、或は脚桿の位置が高くなるように肘と脚桿の接地位置を選ばなければならない。
軽機関銃は、「脚桿の高姿勢/低姿勢(脚桿の高さは高低の2種類の調節が可能) 」で照準高を変えることが出来る。この機能によって、地形によっては射撃が可能となるが、更に微調整等が必要となることもある。
そのような場合は、「両肘の開閉(両肘の間隔を開けば低く、狭めれば高くなる)」によって修正を行う。また、地面の土質によっては脚桿をある程度押し込んで調整するということも可能。
ただし、両肘の開閉は、開きすぎれば射撃困難・命中不良の原因となり、閉じすぎれば据銃姿勢が不確実となって射撃に悪影響を及ぼす。このような状況を避けるためにも、前述した脚桿と肘の位置関係が適当となる場所を選定することが重要となる。
銃を直接地物に依托する射撃(歩操 57)
軽機関銃は、基本的には脚桿を用いる射撃が基本だが、場合によっては地物に依托しての射撃を行うことがある。
『歩兵教練ノ参考(各個教練)第一巻』(1942)では、状況真にやむを得ざる場合とし、以下のような例を挙げている。
・脚桿の毀損せる場合
・森林等に於いて倒れたる樹木等を利用するにあらざれば射撃し得ざる場合
・予め設備なき自動車、列車上、家屋の窓壁等を利用するに方り設備の余裕なき場合
銃を直接地物に依托するにあたって注意することは、歩兵操典の第五十七に記述されているもの以外では、以下のようなものがある。
・ガス排出孔を塞がないこと
⇒「ガス排出孔」は銃身の下にある「ガス喞筒(そくとう/しょくとう)」の左側下部にある
「ガス喞筒」は「ガス(瓦斯)ポンプ」と呼ばれていることもある。
・銃口を少なくとも約10cm地面から離すこと
・胸墻上に依托する場合は、直接銃を置かず約10cmの台(巻藁や土嚢など)を設けて依托する
・堅硬な地物には直接銃を依托しないこと
⇒銃と地物の間に藁・高粱・雑草・糾草・麻袋などを置く
・挿弾子の落下を妨げないこと(※十一年式軽機関銃)
直接依托する際に顧慮する事項(歩操 57)
1、依托点
脚頭付近(脚桿の付け根)が最適。それより手前だと射撃時の震動が大きい。
2、依托物
土嚢、砂嚢、藁、糾草が最適。これらで脚頭付近を依托した場合、脚桿での射撃と比べても遜色が無い。丸太を使用する場合、ガス喞筒が入り、左右に銃を振って射撃が出来るような切り込みを作る。(左画像)
切り込みが無い丸太での依托射撃は命中精度が不良となる。
銃座に拠る射撃(歩操 58)
両肘を臂座(ひざ)に置き、両脚を後方に突っ張る。この際、腹部は内斜面から離れるのが自然。
必要に応じて足の下に糾草などを敷き、上体をなるべく前に傾け、伏射に準じた射撃を行う。
樹木に遮蔽して行う射撃(歩操 58)
軽機関銃は、小銃のように樹木に銃を依托して射撃するということはほぼ無い。樹木を利用する場合は「遮蔽」が主目的となる。
樹木を利用する際は、なるべく近接して利用するが、近すぎると装填や槓桿の動作と排莢に支障が出るので、若干後方で利用するのが良い。
小銃に於ける立射、膝射の姿勢を準用した射撃(歩操 58)
(ロ)は(イ)・(ホ)と比べて射撃の反動に十分堪えられるため、伏射と同等の命中率が期待できる。
(イ)・(ロ)・(ハ)の場合、膝を伸ばして後方に張るようにすると良い。
(ハ)・(ニ)は、堆土や土壁などで肘を置くことが出来ないときに用いる姿勢。この場合は、分隊長や他の兵が射手の右肩を後方から支えて、射撃の反動によって身体が動くのを軽減すれば射撃が容易となる。
ただし、(ハ)・(ニ)はやむを得ない場合に使用する姿勢なので、小銃散兵壕等での射撃の場合は、円匙で掘開して銃座の射撃を準用するか(右図)、10cm程度の高さの砂嚢等を置いて脚桿部を依托して射撃するなどし、(ハ)・(ニ)の姿勢はできるだけ使用を避ける。
説明は
『戦闘各個教練ノ参考 {小銃 軽機関銃 擲弾筒} 第壹巻』 、1938
『歩兵教練ノ参考(各個教練) 第一巻』、1942
『歩兵隊第一期 初年兵教育』、1943
をもとに作成。
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